第14話 突然の訪問

 俺が部室のドアを開けようと近づく。

 すると――。


 ガチャ。


 という音とともに、外からドアが開かれた。


「失礼する」


 外から二人の男女が入ってきた。

 男女ともにキリッとした顔をしている。

 そして、腕には"監理委員"と書かれた腕章が。


「監理委員会委員長の稲叢隆二だ」

「監理委員の天ヶ瀬羽月です」


 二人は簡潔に自己紹介をし、部屋に入ってくる。

 天ヶ瀬という女子は部屋の中を見渡し、俺達四人全員が睨まれた。


 稲叢隆二――。

 俺でも知っている生徒だ。

 俺と同じ二年生でありながら監理委員会委員長であり、次期生徒会長候補にも名が上がっている生徒だ。

 監理委員の中でも一番畏怖されている生徒で、仕事には一切私情は持ち込まず、下級生や同級生どころか上級生にすら容赦はない。

 細かいことにも厳しく、教師ですら彼に注意されていることがある。

 監理委員会による規則違反者への処罰も、彼が最終決定権を持っていると聞く。

 学園一の憎まれ役であり、学園一のクソ真面目な生徒だ。

 そんな生徒が何故次期生徒会長候補なのか。

 それは現在の生徒会執行部が推しているというのが主な原因だろう。


 この学園は生徒会執行部の権限が強い。

 現在の生徒会長も前生徒会長が推薦した生徒だ。

 教師すら生徒会執行部に反論する人物は少ない。

 そのせいか、生徒会執行部と生徒の間には何処か溝があり、まるで違う世界に居るようだ。


「この建物を無断使用しているとの通報があった。見たところ、確かなようだな」


 稲叢がそう言った横で、天ヶ瀬は紙に何かを書いている。


 何でここが見つかった!?

 今まで使用していた香月先輩が見つかるとは考えにくい。

 だとしたら、最近来るようになった俺が原因なのか……?

 だがここに入る前にしっかり周りは確認しているし、ここは悠とサクの二人にしか話していないはずだ。


「委員長、どうしますか」


 と天ヶ瀬のほうが言う。

 よく見たら一昨日俺らが注意された生徒じゃねぇか。


「ここが青春部の部室だということは既に把握している。ひとまず、部長から事情を伺いたい」

「もう、いなむーったら堅苦しいよ〜。そんなじゃみんな怯えちゃうよ〜。もっとフレンドリーな感じに〜」

「いえ、これは仕事ですので。あと、いなむーと呼ぶのはやめてください」

「え〜、あたしは良いと思うんだけどな〜。いなむー」


 ここは部長の香月先輩に任せよう。

 ……それにしてもいなむーか。結構親しいんだろうか?


「ともかく、事情を説明してください」

「この状況を見ればわかるでしょ〜?」

「そうですか」


 稲叢が部屋を見渡し、そして俺達を一瞥する。


「部員名簿はありますか?」


 そう言われた俺は、天ヶ瀬に部員名簿を書いたノートを手渡した。


「委員長、部員は四人のようです。規定の人数である五人を満たしていません」

「そうか……」


 部員名簿を見終わった天ヶ瀬からノートを返される。


「では、青春部は廃部。部長である香月先輩は規則違反者……ということでよろしいですね?」


 その言葉に俺は膝から崩れ落ちそうになった。

 折角見つけた俺達のオアシスが……たった数日で消えることになるなんて……。

 というかまじで無断使用までしてることは知らなかった。こっそり申請してるのかと思ってた。

 でも廃部は納得できない。それは香月先輩も同じなようで――。


「駄目だよ〜。全然だめ〜。廃部なんておかしいよ〜」


 と駄々をこねている。


「しかし、生徒会にも見つかってますよ」


 稲叢がそう言うと、横にいる天ヶ瀬が口にを挟む。


「明後日の金曜日には会議にかけられ、あなた達の処分も決定される予定です。大人しく諦めてください」

「いなむー、そこをなんとか〜」


 香月先輩は先程から稲叢に懇願している。

 その様子に、天ヶ瀬が少し苛立っているような気がした。


「まあ、できなくはないですが……」

「ほんと?! 流石いなむー」

「ですので、明後日の放課後までに五名の部員と顧問となる教師を見つけてください」


 明後日……しかも顧問までもか。

 部員を集めることに必死で、顧問の存在を忘れていた。月嶋先生に名前だけでも貸してもらうか?


 それに、稲叢から猶予を与えられるとは思わなかった。

 この部室に来た時点で、青春部が廃部になるのは必至だと思ったからな……。


「良かったですね。すぐに処罰が下らなくて」


 天ヶ瀬はそう吐き捨て、部室を出ていった。


「それでは、失礼する」


 次に稲叢が部室を出ていき、部室は再び俺達四人になった。


「……ということで、猶予は明後日までになりました。みんな頑張ってね!」

「いやあんたも探すんですよ!?」

「え〜、詩央ちゃん疲れちゃったから〜……」


 一番何もしてないのに、よくそんなこと言えるなこの人……。


「もうこの人は頼りにならない。俺達三人で部員になってくれそうな可愛い女子を探そう」

「あたしはこのオアシスが守れるならなんだっていいぜ!」

「俺も適当に知り合いに聞いてみるわ」


 結局、幼馴染三人で探す羽目になってしまった。

 監理委員会……こうも邪魔な存在だとは思わなかった。

 部活動生が忌み嫌う理由がようやく分かった気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る