第13話 部員探し

 翌日。

 俺は昼休みに悠とサクを連れて、青春部の部室に訪れた。

 事前に青春部のことを説明すれば、主に悠が付いてきてくれなさそうだったので、まだ何も説明していない。

 楠には申し訳ないが、俺達以外と過ごしてくれと言っておいた。


「ふむふむ。海堂くんと悠ちゃんか〜」


 俺が二人を連れてくるなり、香月先輩は二人を見つめている。


「なぁ幸、なんでこの人がいるんだ?」

「ここの部の部長だから」

「ここの部?」

「ほら、前に言った青春部だ」

「あー、あれか。なるほど」


 サクは俺がここに連れてきたことは、そこまで気にしていないらしい。


「幸、やめとけって。この変人に関わるだけ時間の無駄だぞ」


 逆に悠はさっきから不満そうにしている。

 なんでこんなところに連れてきたと、目で俺に訴えているように思えた。


「すまんが二人とも、頼みがある」

「おう、まかせろ」

「えー……嫌な予感しかしないんだけど……」


 サクは頼み事の内容も聞かずに承諾する。

 対して悠はあんまり乗り気ではなさそうだ。

 まあ、悲しいことにその嫌な予感は当たってるけど。


「青春部に入ってくれないか? 部員が足りないんだよ」


 その言葉に二人は驚く。


「まさか幸から部活に誘われるなんて思ってなかったな……」


 そう言いつつ、サクはふかふかのソファの上で寛いでいる。

 驚いてはいるが、どうやら引き受けてくれるらしい。


「暇人のサクはともかく、あたしは色んな部に助っ人で行ってるからな……」

「そこをなんとか……」


 迷っている悠に、俺は懇願する。


「うーん……すぐには決めらんないなー」


 悠の説得に苦戦していると、ソファで寛いでいた香月先輩が近づいてきた。

 自分の部なのだから、ソファで寛いでないで少しは説得に協力してほしい。

 本当に部員を集める気あるのかこの人?


「悠ちゃん、このソファで寛いでみて」


 香月先輩はそう言って、悠をソファに座らせる。


「おっ……おおおおっ?!」


 悠が声を上げる。


「このフンワリと包み込まれるような感触! これが学園内で堪能できるというのか……!」


 ソファに腰を降ろした瞬間、悠は感動したように目をキラキラとさせていた。

 そして、最初ここに来た俺と同じような感想を溢した。


「おまけにお菓子も食べ放題!」


 香月先輩が何処からともなくお菓子を出し、テーブルの上に置く。


「おおっ!」


 悠はテーブルの上に置かれたお菓子を一つ手に取り、口の中に入れる。


「悠、わかっただろ? ここが……ここが俺達のオアシスなんだ!」

「はいはい! 青春部入ります! 幸だけにこんないい思いをさせてたまるか!」

「よっしゃ! けど最後は余計だ!」


 これであと一人。

 俺は了承を得た二人の名前を、部員名簿に書いていく。


 ここからが短いようで長い戦いになるぞ。

 と意気込んでいると、香月先輩に部員名簿を書いたノートを取られた。


「待った待ったー」


 何やら不満そうにしている。

 あんた何もしてないでしょうが。


「悠ちゃんはいいとして……」


 香月先輩はサクのほうをチラッと見る。

 見られたサクはカッコよくポーズを決めた。


「海堂くんは男だよ?」

「何か問題でも?」

「問題だらけだよ〜。何で男の子なの〜。他に女の子はいないの〜?」


 香月先輩は頬をぷくっと膨らまし、まるで子供みたいに駄々をこねる。

 男のサクが入るのは嫌らしい。

 なんてわがままな人なんだ。年上とは思えない。


「別に男でもいいでしょうが」

「え〜、かわいい女の子がいいの〜」


 さらに入部条件が追加されてしまった。

 そんなこと一言も言ってなかったのに……。


「じゃあ、サクに女装でもさせます?」

「あっ、それはそれで少し見てみたいかも……」


 とサクにじりじりと近づく。


「女装なんてしねーからな」

「だそうですよ?」

「え〜、つまんな〜い」


 香月先輩は口を尖らせる。

 サクが女装してたらいいのか……?

 俺もイケメンのサクの女装は見てみたいという気持ちは少しある。面白そうだし。


「ほら遠野くん、早く女の子を連れてきてよー」


 本当に何もしないなこの人……。

 普段の生活もこんな調子なのだろうか。変人と呼ばれて当然だな。


「女の子をあと二人連れて来ればハーレムだよ、ハーレム。女の子に囲まれたいとか思わないの〜?」

「俺以外が全員女子とか肩身が狭すぎますって」


 ……まあ思わないと言えば嘘になるかもしれない。

 俺だって年頃の男子だし、少しくらいは女の子に興味がある。

 けど彼女がほしいと思ったことはない。面倒くさそうだし。


「……本当に五人集める気あるんですか?」

「あるよー。だから、こうしてお願いしてるんだよー」

「じゃあ、俺からはサクも部に入れてもらえるようお願いします」


 部員集めに協力しているのだから、少しは俺の要求を聞き入れてほしいものだ……。

 流石に文句でも言ってやろうかと思ったそのとき――。


「……仕方ないなー。あと一人を可愛い女の子を連れてきたら認めまーす」


 意外にも香月先輩が先に折れてくれた。滅茶苦茶不服そうだが。


「そういうことらしいから、お前らもこの部の入部条件に合った可愛い女子生徒を探してくれ」


 二人に入部条件を書いているノートを見せる。

 二人は入部条件を見たあと、俺と香月を見る。


「いやお前……これ……」

「待て、言いたいことはわかる。俺も多分お前らと同じことを思ったからな」

「え〜、そんなに変かな〜」

「「「変に決まってるでしょ!」」」


 大真面目なのかふざけてるのか……。この人のことだから後者な気がするけど。


「じゃあまた放課後、ここに集合ってことで」

「へいへ〜い」


 二人も協力してくれることになったのはいいが、サクは人脈が俺とそこまで変わらないからなぁ……。

 俺達三人の中だと悠だけが頼りか。

 あとは昨日会った御子柴さんが見つけてるかどうか、か。

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