第9話 謎の部の正体
昼休み。
教室で悠達と談笑しながら、俺は購買で買ってきたパンをくらっていた。
「青春部って知ってるか?」
朝は慌ただしかったから、聞くのを忘れてたな。
「ふぇいふんふ?」
「なんだそりゃ」
悠とサクが首を傾げる。
悠はちゃんと飲み込んでから話してほしい。
この様子だと二人は知らなさそうだ。
となると、残りは楠だが……。
「少しくらいなら知ってるよ」
流石、学園の情報を知り尽くしているだけはある。
「女子の間では割と有名だよ」
「あたし知らないんだけど?」
「悠は女子よりも、遠野や海堂と一緒にいることのほうが多いからね。女子で知らない人もいるし、不思議なことじゃないよ」
女子の間でってことなら、男の俺が知らなくて当然か。
「青春部って一体何なんだ?」
「聞いた話では相談に乗ってくれて、いろいろアドバイスを言ってくれるらしいね」
青春……なのか?
俺の持っている紙の内容と全く違うな。
青春のせの字もないように思える。
「その相談の内容は、恋の悩みがほとんどみたいだね」
「恋……って男女のか?」
まあ、学生の悩みといったらそれぐらいしかないだろうけど。
「そう、その恋。アドバイスをもらって実際に付き合ったっていうカップルもいるみたい」
「へー、そんなことやってる部あるんだ」
悠は割とどうでもよさそうに言う。
まあ、悠は他人に相談するような悩みを持ってなさそうだもんな。
「じゃあ、俺の恋の相談にも乗ってくれるんじゃ……!」
逆にサクは興味津々のようだ。
「それは流石に……」
楠は難色を示す。
言葉に出さない辺り、楠にもまだ良心というものは残っているらしい。
普段の新聞記事からは、そんな欠片一切見えないけど。
「無理でしょ」
「無理だな」
だが俺と悠は容赦なく否定する。
「サクの恋の悩みなんて聞いてるだけで地獄だっての」
「いっそのこと、ロリコンを治す方法でも相談するか?」
「お前ら親友の俺に厳しくない?」
でも世の中のロリコンに対する認識ってこんなものな気がする。
まあ、俺も悠も冗談で言ったことだしな。
数年前からこんな調子だから、逆にサクがロリコンじゃなくなるとこっちの調子が狂いそうだ。
「ていうか何処で青春部なんて知ったんだ? 女子しか知らないんだろ?」
「ちょっと小耳に挟んでな」
サクに尋ねられて、一瞬あの紙のことを言おうかと思ったがやめる。
普段から部活動に全く興味のない俺が、あの紙を見て気になったなんて言うのは恥ずかしい。
「あたしと同じだねー」
「お前の場合は盗聴だから違うだろ」
「やだなー、盗聴だなんて人聞きの悪いこと言わないでよー」
全く……新聞を作るのは大変なのだろうが、同じ生徒のプライバシーも考えてほしいものだ。
「その青春部ってやつ。新聞のネタになりそうなもんだけどしないの?」
「いやー、何度も写真を撮ろうとしたんだけど、毎回顔を隠されちゃうんだよねー。あれは新聞部に対して警戒心が強すぎて無理だね」
隠し撮りも躊躇わない楠を回避するとはすごいな。
というか何か新聞に載せられたら都合の悪いことでもあるのだろうか?
「青春部に誰がいるかとか知ってるのか?」
「部員は一人だけってのはわかるんだけど……、顔も名前もわからないんだよねー。異様なほどにガードが固くて、いろいろ試したけどどれも無理だったし」
顔はともかく、名前もわからないとなると、楠だけじゃなく相談に来る人にも隠しているのだろうか。
楠が記事にしようとしたなら聞き込みも行ったはずだしな。
「でもなんで顔と名前を隠すんだ?」
「記事にされるのが嫌とか?」
サクの疑問に悠が答える。
「いや、それは違うと思うよ。というか、あんた等は私の新聞を何だと思ってんの……」
「読んでる分には面白いが、記事にされる側としては堪ったもんじゃないからなぁ」
俺の言葉にサクと悠が首肯する。
「新聞は面白さが命だからね。変える気はないよ」
新聞は面白さが命というのには、一理あるような気もする。
評価されるには、まず読んでもらわないといけないからな。
「それで、さっきの話なんだけど……。顔も名前も隠すのは監理委員会に知られたくないからじゃないかな?」
「なんで知られたくないんだ?」
「もう、質問するばっかりじゃなくて少しは自分で考えなよー」
楠が不満げに口を尖らせて文句を言う。
「じゃあ問題。ここ風袮学園において、部を立ち上げるために必要な最低人数は何人でしょう?」
「えっと……」
何人だっけ……。
部活とか一切興味なかったから、その辺りのことはよく知らないんだよな。
答えがわからない俺は、悠とサクを見る。
サク……もどうせ知らないか。
あいつも俺と同じで部活に興味なさそうだしな。
残るは悠一人だけだ。
「ふっふっふ。あらゆる部活に出ているあたしを舐めてもらったら困るね」
何やら自身満々だ。俺達とは纏っている覇気が違う。
確かに、いろんな部活に助っ人として出ている悠ならば、知っていること間違いなしだ。
「ズバリ、必要な最低人数は……三人!」
自身満々の悠はそうはっきりと言い、ドヤ顔をしていた。
この様子を見る限り間違いない。俺はそう思った。
しかし――。
「ブッブー。正解は五人でしたー」
「ありゃ?」
悠が間抜けな声を出す。
俺達とは違って悠なら……と思ったが、その期待も無意味だったようだ。
「まあ、どっちにしろ青春部は一人だから、監理委員会に知られたら即取り潰しだろうね」
「でも女子の間だけとはいえ、よくバレてないな」
「そこは生徒次第だろうね。けど今も存続してるわけだから、わざわざ部を潰そうと思う生徒がいないってことじゃないかな」
普通の生徒は監理委員会が嫌いだから十分ありえるな。
それに、恋愛相談ができてアドバイスももらえる貴重な場所を潰そうとする生徒もいないわけか。
「どのみち、恋愛なんて俺らには無縁の存在だしな。関わることなんてないさ」
「ま、それもそうだな」
「確かに」
サクの言葉に俺と悠が同意する。
これ以上は楠から青春部について聞き出せることはなさそうだ。
放課後にでも、旧生徒会室に寄ってみよう。
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