第4話 紙に書かれた謎の部
「これで最後っと」
両手に抱えたゴミ袋を置き、一呼吸する。
ガラガラだったゴミ置き場はいつの間にか新聞部のゴミで埋め尽くされていた。
部室とゴミ置き場を一体何往復しただろうか。
日はだいぶ傾き、綺麗な夕日が校舎を赤く染め上げている。
部活動に励んでいる生徒の声も段々と少なくなり、部室を行き来する度に駐輪場の自転車の数も徐々に減っている。
グラウンドの横を歩いていると、カキーンという音が聞こえ、その数秒後に野球ボールが目の前に転がってきた。
「すいませーん! それ、こっちに投げてもらえませんか!」
野球部の生徒がこっちに向かって大声でそう叫ぶ。
遠くからでもはっきり聞こえてくるのは流石野球といったところか。
地面に転がったボールを拾い、その生徒に向けて軽く投げる。
疲れ切った体から放たれたボールは弱々しく空を飛び、野球部の生徒に届くことなく地面に落ちてしまった。
野球部の生徒は走ってボールを取り、俺に向かって頭を下げる。
「ありがとうございます!」
そう言うとその生徒は自分のポジションへと戻っていった。
さて、俺も部室に戻るか。
部室では楠が道具の整理などをしている。ゴミはあらかた片付けたから、もうゴミ置き場に来ることはないだろう。さらばゴミ置き場。
昇降口で上履きに履き替え、部室へと向かう。途中通り過ぎる教室には誰もおらず、閑散とした校舎はある意味新鮮だ。
「こっちはもう終わったぞー」
部室に入って楠にそう声を掛ける。
「そっか。こっちももう直ぐ終わるからそこらへんの椅子にでも座ってて」
「ん、わかった」
近くにある椅子に座り、片付けている楠の姿を眺める。
窓から差し込む夕日が教室に浮かぶ埃で乱反射し、オレンジ色の髪がより一層キラキラと輝いているように見える。
その楠の後ろ姿に、なんていうか……つい見惚れてしまった。
「おーい、遠野。遠野……? 遠野ってば」
「痛たた」
ぼーっとしていると楠に頬を摘まれていた。
はっとした俺は辺りを見回す。
どうやら片付けは終わったらしい。
「ほら、手伝ってくれたお礼」
そう言って缶コーヒーを俺に渡してきた。
「お、サンキュ」
カシュッと音を立てて缶を開け、一口飲む。
苦味の中にほんのりと甘味がある。俺の好きな安い缶コーヒーの味だ。
「遠野、お疲れ。手伝ってくれてありがとうな」
「ま、困ったときはお互い様だ」
自分の鞄を持って立ち上がる。
「お前はまだ帰らないのか?」
「私は少し作業してから帰るよ」
「作業もほどほどにして、暗くならない内に帰れよ。お前も一応女の子なんだからな」
そう言うと楠は驚いたような表情をする。
「心配してくれてんだ?」
「別にそういうのじゃ……」
「ふふっ、ありがと」
意外にも楠は素直にお礼を言ってきた。なんだか背中がムズムズする……。
「じゃあな、遠野」
「んじゃ」
楠と別れの挨拶を交わし、俺は部室を後にした。
* * *
「はぁ……」
部室で一人ため息を溢す。
「悠が惚れるのも納得だなぁ」
まぁ本人は気づいてないんだろうけど。
本人は無自覚なのだろうが、遠野は他人に対しては優しい。
中等部のとき、いつも一人だった私によく話しかけてきてくれた。お陰で今は他のクラスメイトとも仲がいい。
さっき私を心配してくれたのも、きっと自然と出てきた言葉なのだろう。
そうだ。いつも海堂と一緒にいるせいで忘れることが多いが、遠野だって十分にカッコいいのだ。
「悠も大変だなぁ。あんなに鈍感な男に惚れちゃって」
ま、それは本人達の問題だし、私はそのことには関与しないつもりでいる。
「よしっ。明後日の新聞、進めますか」
遠野達のことを一旦忘れ、机に向かい、途中だった新聞を書き始めた。
* * *
昇降口で靴に履き替え、学園を出る前に自販機のところへ行く。
自販機の横にあるゴミ箱に、空になった缶コーヒーを入れる。
一度体育館に行ってみるか。もしかしたらまだ悠がいるかもしれないし。
そう思って体育館へと足を運んだが――。
「朝比奈さんならもう帰ったよ」
バスケ部の人にそう言われてしまった。
つまり今日は一人で帰ることになるのか。
もう時間も遅いし、帰ったら梓に怒られそうだな。
正門に向かっていると、左の方から一枚の紙が飛んできた。
「何だこれ?」
飛んできた紙を手で掴み、何か書かれているか確認する。
白紙……?
掴んだ紙を見るが何も書かれておらず、裏返してみる。
青春していますか?
最初に目に入ってきたのはその一文だった。
紙の下の方に視線をスライドさせていくと、青春部と書かれていた。
部活の勧誘用紙か?
というか向こうにあるものって……。
俺は紙が飛んできたほうに目を向ける。
その先には旧生徒会室のある建物がある。
……まぁいいか。部活に入る気はないし。
俺は紙を鞄に入れ、学園を出た。
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