第3話 新聞部

 放課後になった。

 ホームルームを終えたクラスメイトは、各々直ぐに帰ったり、委員会や部活動に行ったりし始めている。


「悠は今日どうするんだ?」

「んー今日は無理かな。バスケ部に呼ばれてんだ」

「そうなのか。じゃあ俺と幸だけか」


 俺達三人はクラスでも少ない帰宅部だ。

 悠はいろんな部に助っ人として出てるから運動部と言っても過言じゃないけど。

 他にも帰宅部の生徒はいるが、そういう生徒は往々にして委員会やバイトをしている。

 本当に何もしていないのは俺とサクくらいなものだろう。


「そこの暇なお二人さん。ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」


 横で俺達の話を聞いていた楠が話しかけてきた。


「頼みたいことって?」

「部室にある資料をちょっと片付けたくてさ。男手が欲しいんだよね〜」


 楠はこのクラスで唯一の新聞部だ。

 一応部として存在できる人数はいるらしいが、ほとんど楠一人で活動している。

 そのため学園の掲示板に新聞が掲載されるのは不定期となっている。それでも週ニ、三回は掲載しているのだから大したものだ。


 そこまではいいのだが、問題はこいつの書く記事だ。

 いつもカメラを持ち歩いているのも変わっているが、お陰でいつ記事のネタにされるか分かったものじゃない。

 こいつによってあらぬ噂を流された生徒が何人いることやら……。


 それに、規則違反してる生徒を監理委員会よりも早く見つけたりと、その情報網は伊達じゃない。

 今や学園内を一番知り尽くしている生徒ととして、ある意味信用されている。


 ただ俺は一度もネタにされたことがない。理由は新聞のネタには面白くないからだとか。

 喜ぶべきなのか悔しがるべきなのか複雑な気持ちだ。


「俺は構わないぞ」


 特に用事もないしな。帰りが遅いと妹の梓に文句を言われるくらいだ。


「それってどのくらい掛かる?」

「わかんない。でも結構量があるからそこそこ時間はかかるかな〜」

「じゃあ俺はパスで。すまん」

「何かあるのか?」


 悠がサクに聞く。

 俺も断る理由を聞きたい。こいつに用事があることなんて滅多にないしな。


「帰る時間が遅いと小さい子がいないだろ!」


 その言葉に全員が引いていた。

 近くにいた悠は露骨に距離をとっている。


「今のジョークだから。そんな目で俺を見ないでくれ」

「サクが言うと冗談に聞こえねぇんだけど……」


 まぁこいつの小さい子好きは異常でもあり平常でもあるからな。


「まぁ本当は親が帰ってくる前に部屋を片付けときたいんだよ」

「「あー……」」


 俺と悠はなんとなく察する。

 こいつは変な性癖をしているが、一応姉がいる。

 その姉は酔っ払いで片付けができないらしく、同じ部屋を使ってるサクが仕方なく片付けをしている。

 お陰でサクの掃除スキルは高い。


「悪いな」

「いいっていいって。海堂が無理ならその分、遠野をこき使うから」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 果たして無事に家に帰れるのだろうか。

 話している内に教室内の生徒も減ってきている。


「んじゃ、あたしはもう行くわ」

「俺も帰るわ。じゃあな」

「おう」

「海堂、お疲れー。悠は怪我をしない程度に頑張れ」


 悠とサクの二人は教室を出る。


「私たちも行くか」

「そうだな」


 楠と並んで教室を後にする。

 俺たちが向かうのは新聞部の部室がある特別棟。現在はその殆どの教室が使われておらず、主に文化部が部室として利用しているくらいだろう。

 そのため、他の生徒の流れとは逆の方向に歩みを進めている。


 俺たちは他の生徒の姿が全くない渡り廊下から特別棟に行き、部室のある四階まで上がる。

 あまり使われていない割には掃除が行き届いており、埃っぽいということはなかった。


「今開けるから」


 楠はポケットから鍵を取り出し教室のドアを開ける。

 楠が先に入り、その後俺も入る。


 なっ……。

 なんじゃこりゃあ!?


 教室に入ってまず目に入ってきたのは新聞……いや、ゴミの山だった。

 辺り一面新聞紙やら写真の山で、普段作業をしていると思われる机までの道だけが確保されている。


「ちょっと散らかってるけど、気にしないで入っていいよ〜」

「いや、これちょっとってレベルじゃ……。もしかしてこれを片付けるのか?」

「それ以外あると思う?」


 楠は俺を見て微笑している。

 悪魔だ。ここに悪魔がいる。


「私と一緒に青春の汗を流さないか!」


 楠はキメ顔をして俺の肩を掴む。


「嫌だ! こんな青春は送りたくない!」


 ここから逃げようとするが、肩を掴むその手には力が込められていて、絶対に逃さないという強い意思を感じた。

 悠、サク。俺はどうやらここまでのようだ。あとは俺の分まで生きてくれ。


「ふっふっふ。遠野、これなーんだ」


 楠がそう言ってポケットから一枚の写真を取り出した。

 そこには今朝の俺と楠のやり取りが写っていた。それも、俺が楠の胸に飛び込もうとした瞬間のものが。


「さ、最初っから嵌められていたのか……!」

「クラスメイトに頼んでたんだー。遠野のゆすりのネタになるものを撮って欲しいってね」

「ちっ……ちっきしょおおおおおおおおお!」


 これが友人にすることかよ!

 鬼! 悪魔! パパラッチ!

 と心の中で繰り返し唱える。


「あっはっはっは! 分かったらすぐ片付けすっぞ」

「……はい」


 流石にあの写真をばら撒かれてしまえば俺の平和な学校生活が終わってしまう。

 結局しぶしぶ片付けをやらされる羽目になってしまった。

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