初仕事(2)
二日後、何とか納品が間に合いそうだ。
「…ふぅ。」
「結構ギリギリだったな。」
「薙刀が思ったよりも曲者でしたね。」
「薙刀の納品は明日だが、やはり早めに仕上げておきたいよな。」
俺は刀に布をかけた。
「…後は、今日の分の二人が来るのを待つだけですね。」
「…お前、今日は刀を打たなくていいぞ。疲れただろう。少し休め。」
「ありがとうございます。」
俺は、初の自分の仕事でそわそわしていた。
(落ち着け…。無駄な感情の起伏は抑えろ…。)
すると、店の扉が開いた。
俺はすぐに反応した。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。」
「…おう…。仕事を頑張っているようで何よりだ。プカク。」
店に入ってきたのはシモンさんだった。
「…いらっしゃいませ。」
「おい。分かりやすく気を落とすな。」
「落としてません。」
「嘘つけ。」
「落としてません。」
「…まあいい。それよりプカク。初仕事だ。」
「仕事ですか。」
「ああ。今度の入団審査会、お前にも運営を協力してほしいんだ。」
「運営…記録とかですか。」
「いや、そうじゃない。入団審査会は四人一組を32組作って実践審査をやるんだが、今の募集人数だと一組分余ってしまうんでな。それで、そこにプカクが入って欲しいんだ。」
「…別にいいですけど、他の騎士団員じゃ駄目なんですか。」
「勿論、その枠に他の団員も入ってもいいんだが、やはりプカクはかなり異例な入団の仕方だったからな。他の騎士団員からの不満を避けるために、どちらにしても入団審査会には出て欲しかったんだ。」
「なるほど。分かりました。でも、その日は討伐隊の仕事はできませんよね。大丈夫でしょうか。」
「ああ。一応プカクは今、厳密には騎士団員の内定を貰っているだけで、正式な入団は入団式の後だからな。それまで仕事は来ない。」
「…分かりました。入団審査会はいつですか。」
「一週間後の朝から。それまでしっかり稽古しとけよ。何なら俺が練習相手になってやる。」
「分かりました。」
「じゃ。…邪魔したな。スミスのじいさん。」
そう言って、シモンさんは出ていった。
その入れ違いで、ミゲルさんが入ってきた。
「凄ぇ…あれ、シモン副団長だよな…。」
「…!いらっしゃいませ。」
「…あ、特注品を注文していたミゲルです。」
「お待ちしておりました。刀を持って来ますので、少々お待ち下さい。」
俺は店の奥に刀を取って、戻ってきた。
「こちらになります。」
「おぉ…!思った以上のクオリティ…!」
ミゲルさんは喜んでいた。
「是非振ってみてください。」
「はい。…凄い、前の刀より長いのに軽い。」
「そういう風に作りましたから。」
「…ありがとうございます。おいくらでしょうか。」
「…。」
価格設定のことを完全に忘れていた。
俺は村の頃を思い出して、大体の目星をつけた。
「…。原価が3000エルサくらいなので…燃料代と収益を考えて…そうですね。6000エルサくらいですか。」
「え!?」
「何か問題でも。」
「問題というか…あの…あそこに置いてある格安の刀、あれが20000エルサですよね?」
「えっ」
俺は格安の刀の棚を見た。
「…本当だ。」
(俺の刀、そんな高値で売られていたのか…。)
「特注品の方が安かったら、皆あれ買いませんよ!もっと高く設定しないと!」
「え…っと…じゃあ、21000エルサで…。」
「いや!30000エルサ払います!それでも十分安いくらいですよ!」
「あ…はい…。すみません…。」
「これ、受け取ってください!」
俺はミゲルさんから30000エルサを受け取った。
「ありがとうございました!また来ます!」
そう言って、ミゲルさんは出ていった。
すると、奥で見ていたスミスさんが出てきた。
「…お前、金の勘定はできないのか。」
「いや、うちの村ではあのくらいの値段が大体の相場でしたから。」
「あぁ…。まぁ、都は基本的に物価が高いからな。その辺りの金銭感覚も掴んでいけ。鍛冶屋以前に商売に必要だ。」
「はい。」
その後、残り二人の注文も無事納品できた。
「…ふぅ。」
「どうだ?初の特注は?」
「…神経を使いましたね。」
「まぁ、最初にしては上出来だ。後は、客からどんなクレームが来るかだな。」
「嫌なこと言いますね。」
「特注品は、より直に客の反応が返ってくるからな。…それより、さっき言ってた入団審査会のこと、いいのか?」
「大丈夫です。当日行くだけですから。」
「…いや、お前がいいならいいんだが…案外動けなくて、当日怪我とかやめてくれよ?相手も強いだろうしな。稽古するなら休んでもいい。」
「いえ。鍛冶屋の仕事がありますから。」
「…そうか。もう一度言うが、くれぐれも怪我するなよ。」
「大丈夫です。死線は幾つもくぐってきました。」
「…本当に大丈夫か…?」
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