都入り(4)

俺とアイリスさんは部屋を出て、城の門の前で待機した。


「…あの。」

「ん?どうしたの?」

「アイリスさんは姫様と仲がいいようですが、どういった関係なんですか。」

「うーん、妹みたいな友達かな。私はもともとシャルルの…ソフィーのお姉ちゃんの遊び相手としてたまにお城に招かれたんだけどね。ソフィーが生まれてから一緒に世話をして、本当の姉妹みたいに育ったの。」

「シャルル…シャーロット姫様のあだ名ですか。…そういえば、シャーロット姫様は北の方に行ったと。」

「うん。北との関係を結ぶ大使として向こうに行った。シャルルは、王様の仕事で一緒に最果ての村に行ってから、あの村が大好きでね。王様が北の村を経済的に制裁するって言ったとき、シャルルが猛抗議して。」

「…北の村…アイリスさんが魔法を使うのも、シャーロット姫様の影響ということですか。」

「うん。一緒に勉強したんだ。シャルルの方が覚えるのが早かったけど。何せソフィーの姉だよ?興味のあることには全力疾走だからね。」

「何となく想像がつきます。」

「…シャルルは本当に凄かったんだ。魔法も、私よりずっと強かった。」

「…それって、隊長レベルってことですか。」

「騎士団に入ってたら、隊長どころか騎士団長だったかもね。まあ、あれでも王様の娘だから無理だろうけど。」


すると、姫様が降りてきた。


「お待たせしました!では、行きましょう!」


今度はワンピースだった。


「…どうです?プカク。何か感想は?」

「…なんというか、やっぱり細」

「何ですか?」

「…似合ってます。」

「よろしい。」



俺達は、鍛冶屋に向かって城下町へ下りていった。



「ここですね。」


本当に、家からすぐの所にあった。


「すみませーん!ソフィアですー!」


すると、奥から渋い爺さんが出てきた。


「ソフィア姫様。お待ちしておりました。どうぞ、汚い場所ではありますが、お上がりください。」


俺達は中に入った。



渋い爺さんはお茶を出しながら、椅子に座るように促した。

俺達は椅子に座り、爺さんと向かい合った。


「えー、紹介しますね。こちらが貴方がお世話になる鍛治職人、スミスさんです。」


スミスさんはペコリと会釈した。


「こっちは、スミスさんに預かってもらうプカクです。」

「よろしくお願いします。」

「プカクは騎士団員でもありますので、騎士団の仕事が入れば、できるだけ予定を開けてあげてください。」

「分かりました。」

「…。」

「…。」


話が止まってしまった。


「あー、えっと、このお店は何年くらいやってるんですか?」


沈黙に耐えかねたアイリスさんがスミスさんに話を降った。


「私が四代目で、創立から110年ほどになります。」

「凄い!そんなに長く!」

「はい。」

「へぇー。やっぱり代々伝わる技法とかがあるんですか?」

「いえ。基本に忠実が、うちのモットーですから。」

「へぇー。そうなんですねー。」

「…。」

「…。」


話が止まった。

アイリスさんと姫様が居心地の悪さにアタフタしていると、スミスさんが立ち上がって言った。


「…話が終わったなら、早速彼の腕を見てもいいですか。」

「え?」

「プカク君の現状を見たいんです。」

「えーっと…。」


姫様が戸惑っていたので、俺が答えた。


「分かりました。」


俺は腕を捲り、外套を外した。


「工房はこっちですか?」

「ああ。」


俺は工房に向かった。


「…鍛冶屋のことは、私達が入る隙はないみたいですね。」

「だね。」


俺は肩を伸ばしながら、姫様達に声を掛けた。


「…あ、これから大分時間がかかると思いますので、暇になったら適当に帰ってください。」

「いえ。お気遣いなく。私はこういう作業を見るのが大好きですから。」

「そうですか。」



工房に入り、鉄を取り出した。


「…この鉄、若干軽いですね。」

「玉鋼だ。現代的な製法ではなく、伝統的な製法で作られる。完全な鉄じゃなくて、1~2%ほど炭素が含まれている。その炭素が、刀のしなりを生む。」

「刀のしなり…なるほど。」

「刀はただ硬いだけではいけない。適度な柔軟性が必要だ。…お前の店では、玉鋼で打っていなかったのか?」

「はい。うちではほぼ完全な鉄で打っていました。」

「…なるほどな。まあ、ものは試しだ。適当に打ってみろ。」

「はい。」



俺は刀を作り始めた。

鉄を熱しては打ち、熱しては打つ。

何回か曲げて重ね、延ばしてまた曲げる。この行程で、不純物を飛ばす。

しかし、今日の玉鋼はかなり多くの不純物が出た。


「…これ、難しいですね。」

「初めてにしては上出来だ。」



そのまま柔らかい層と硬い層を重ね、打って整形し、反りをつけていく。

打ち、延ばし、打つ。

いいところまで行ったら、水につけて冷まし、研いで刃をつけ、土を塗る。

そして、刃を高温で熱していく。

最後に、熱した刀を水につける。この瞬間に、刀に魂が宿る。全ていつもの工程だ。


(…いつもこの瞬間だけは緊張するな。)


水につけると、その刀は淡黒く光った。


「…黒い。」

「玉鋼っていうのは、そういうものだ。…見せてみろ。」


スミスさんは俺の刀を見た。


「…まだまだ粗削りな部分はあるが、それなりの腕はあるみたいだな。」

「ありがとうございます。」

「…よし。明日からお前には、格安販売用の武器を打ってもらう。」

「格安用ですか。」

「うちの店は上流階級や騎士団のお偉いさんには御用達なんだがな。どうにも新人や旅人が寄ってこない。だから、格安で武器を売って、そういった層の客も取り込みたいと思ってたんだ。お前も数多く刀を打てて、修行できていいだろう。」

「はい。分かりました。」

「格安といっても、手を抜いていいわけじゃないからな。その辺りは勘違いするなよ。」

「はい。」

「明日からは朝の5時から店に入れ。それと、騎士団の仕事がない日は、一日二本以上刀を打て。それがノルマだ。」

「はい。」


その様子を見ていた姫様とアイリスさんは、ホッと息をついた。


「どうにか、認めてもらえたみたいですね。」

「うん。よかったじゃん。」



俺は、都に来てようやく、修行の場を見つけた。

俺は、絶対に成長して村に帰る。そう誓った。

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