夢(2)

「…。」


俺は家に帰ってから、いっそう悩んでいた。

俺は村を出ていって、カナを泣かせてしまうのか。俺の本当に望んでいる未来とは。進むべき道とは。

考えるほど、道は見えなくなる。


「…あの…大丈夫ですか?」


姫様は既に家に帰宅していて、シモンさんはそのまま親父と打ち合わせをしていた。


「ああ…大丈夫です。」

「…悩んでいるのですか?」

「まぁ…。」

「なぜ悩む必要があるのです?あなたにとって都は、居ても苦痛な場所なのでしょう?」

「まあ…まだ都に行ったことは無いので、確証はありませんが。」

「…だったら、ここにいればいいじゃないですか。何を悩むことがあるのです?」

「…確かに、俺はこの村にいたいです。でも…それと同じくらい、親父の跡を継ぎたい。」

「この村にいながら、レタルさんの跡を継げばいいじゃないですか。」

「いえ…。それはできません。それはさせないと、親父が言ったので…。」

「それは納得できません!」


姫様は大きな声を出して立ち上がった。


「あなたの人生はあなたのものなんです!人生の選択くらい、自分の我儘が通ってもいいでしょう!」

「いや…まあ…俺だってこの村にいながら親父の跡を継げるならそれがいいですけど…。でも、自分自身、心の何処かで『それじゃ何も成長しない』と言われているような気がしていて…。自分でも分かってるんだと思います。今のままじゃ駄目だって。」

「それは幻聴です。」

「そんなにキッパリ言いますか。」

「言います。その声は幻聴です。だって、貴方の父はあのシモンの御用達なのですよ?それほどの鍛冶屋は、都にもそう居ません。つまり現状、あなたは高い水準の修行ができる環境にいるのです。この村から出ようが出まいが、貴方の成長率は一緒です。それなら、村を出るだけ損じゃないですか。」

「…。」

「…それでもまだ悩みますか。」

「すみません…。」


すると、シモンさんと一緒に親父が工房から戻ってきた。


「姫様、申し訳ございません。遅くなってしまいました。今から急いで夕飯を作りますので。」


すると、姫様が徐に口を開いた。


「…レタルさん。少しお話があります。」


親父は、台所へ向かう足を止めた。


「…何でしょうか。」

「彼を、この村で修行させてあげてくれませんか?勿論、跡を継がせる前提で。」

「姫様…。別に俺は…」

「貴方は黙っていてください。」


俺は姫様に押し退けられた。


「…どういう意味ですか?」

「言った通りです。彼を、あなたの跡継ぎとして、この村で、修行させていただきたいのです。」

「…。」


親父はちらりと俺の方を向いた。

すると、沈黙に耐えかねたシモンさんが口を開いた。


「あの…姫様…これはプカクとレタルの問題であって、我々が口を出すのは…」


姫様はシモンさんを睨み付け、目だけ制圧した。


「…申し訳ありません…。」


暫くして、親父はため息をついた。


「…分かりました。検討しましょう。ただし、条件があります。」

「条件?」

「一本、そいつに刀を打たせてください。その刀の出来で判断します。」

「…!しかしそれでは…!」

「俺は今までこいつに一通りの技術は教えました。なので、今のそいつならある程度のいい刀は打てるはず。もし打てないのなら、それは私の役者不足。私がこれからこいつにいくら教えたところでどうにもなりません。」

「でも…!」

「…何か反論がありますか?」

「…っ!」

「…異論はありませんね?」


姫様は俺に悔しそうな目線を送った。


「…姫様。大丈夫です。ありがとうございます。ここまでしていただいて。」


(俺も覚悟を決めないとな…。)


俺は腕をまくり、工房に向かった。

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