運命の歯車(1)

今、大分関係図がややこしくなってしまったので、お茶でも飲みながら一度整理することにした。

俺は全員の分の茶を出し、椅子に座って今の状況を確認した。


「とりあえず、俺の名前はプカクで、鍛冶屋のレタルの息子だ。」

「あら、そうでしたか。旅人のお方だと思っていましたが、この店に行く途中というのは、そういうことだったんですね。」

「で、シモンさんは親父の店の常連だ。」

「はい。レタルさんの話はよくシモンから聞いています。」

「俺はあんたをさっき山で化物から助けた。…で、あんたは…ソフィア=スプヤさん。」

「はい。私はスプヤ国第二王女、ソフィア=スプヤです。ソフィーでいいですよ?」

「…俺の住んでる国って、スプヤ国…だよな。」


すると、親父が答えて言った。


「ああ。スプヤ王国ノンノ村。都から見て南の方にある米と鉄鋼の村だ。」

「…つまり、目の前にいるのは…。」

「我が国の国王の娘だ。」


俺はそう聞いた瞬間、土下座した。


「そうとも知らず、多大な無礼を働きましたこと、どうかお許しください。」

「いえいえ!とんでもない!むしろ、あなたと一緒にお話ができて、とても楽しかったです!」


すると、シモンさんが真っ青な顔で聞いてきた。


「姫様…化物に襲われたという話は本当ですか…。」

「ええ。でも、彼が助けてくれたんです。」


すると、シモンさんは頭を抱えて項垂れた。


「姫様…次からはこのようなことは無いようにお願い致します…。」

「シモンは心配性ですね…。世の中、どうにかなるものですよ?」

「それは運が良かっただけです!このようなことが続けば最悪、姫様には王宮から出ないようにしていただかないといけなくなりますよ!」

「うっ…。それは困ります…。」

「私だって姫様の身を預かっているんです。姫様にもしものことがあったら…。」

「分かりました!分かりましたから!その話は一旦置いておきましょう!それより彼です!私は彼と話していて、面白い話を色々聞きました。それで、私は彼をめっぽう気に入ったんです。しかもあの大きさの化物をおもちゃのような刀で倒した…。彼は騎士団たる資格を十分に持っています!」


すると、姫様は立ち上がった。


「私がプカクの騎士団への入団を許可します!さあ、一緒に都で騎士団員として過ごしましょう!」


姫様は俺に手を差し伸べてきた。


「…丁重にお断りいたします。」

「なーーーー!」


姫様は予想外の展開に、姫様とは思えない声を出した。


「何でですか!都にはここには無いものが沢山ありますよ!?それに、あなたは騎士団になるためにあんなに修行をしていたんじゃないんですか!?」

「俺は鍛冶屋の息子です。将来は鍛冶屋になるつもりでいます。あと、俺が倒した怪物は体こそ大きかったですが、経験は浅く戦闘慣れしていない化物でした。…俺はそこまで強くはありません。俺の剣術は刀の試し切りをする程度です。騎士団になる資格もありません。」


すると、姫様はムーッと頬を膨らませた。


「じゃあこの際宮廷の鍛冶職人でいいです。都に来てください。」

「いや、俺の刀を粗末だとか言ってたじゃないですか。」

「それは…。そうでしたね…。」


すると、姫様は思いついたように言った。


「じゃあこうしましょう!シモンと戦って、あなたが負けたら騎士団に入団してください!勝ったら、鍛冶屋を目指したままでいいです!」

「それ、実力的に俺が入団する資格はありますか。」

「あっ…。…じゃあ、逆で。あなたが勝ったら、入団してください。」

「それ、俺がやるメリットはありますか。」

「…じゃあ、こうしましょう。あなたが負けたら入団してください。入団する資格があるかどうかは、シモンに判断させます。」

「その勝負、お断りします。」

「むーーーっ!」


姫様がはち切れんばかりに頬を膨らませていると、親父が口を開いた。


「やってさしあげろ。プカク。勝てばいいんだ。」

「…親父は俺が騎士団になってもいいのか?」

「鍛冶屋をなめるな。騎士団の副団長ぐらい倒せなくてつとまるか。」

「つとまるだろ。」

「それは所詮、並の鍛冶屋だ。一人前になりたければ、戦いを一番知っていなければならない。」


はっきり言ってそんなこともないと思うが、親父の言うことには逆らえない。

俺は一つため息をついた。


「…分かりました。何を使って戦うんですか。」

「やはり剣がいいでしょう。でも、本当の殺し合いじゃないので、棒でやりましょう。」



俺達は棒を持って外に出た。


「ルールは一本勝負。相手の急所をつくか、相手を完全に抵抗できない状態にまで追い込んだ方の勝ちです。いいですね?」

「投げ技や格闘術はアリですか。」

「そうですね…実践を考慮して、アリにしましょう。シモン。手加減は無用ですよ。」

「御意。」

「始めの合図で始めますよ?いきます…」


シモンさんは棒を軽く握った。


「では、始め!」


すると、シモンさんはその棒の先端から、いきなりとてつもない威圧感を放ち始めた。

視界が歪み、感覚は正に壁の前のような、これ以上どうにもできないと直感するような圧迫感だった。

俺は思わず半歩後退りした。

シモンさんはその隙を見逃さず、間合いを詰めて技を打ってきた。

俺はその攻撃を間一髪のところでかわすと、その次の技が間髪入れずにやってきた。

この技を棒で受け止め、競り合いになった。

競り合いでも相手の強さはわかった。

その力はまるで化物のようで、競り合いとは言えないほど押された。

俺は引き際に技を出し、間合いを切った。

しかし、その間合いを切った後、一瞬の油断の隙をついてもう一撃入れてきた。

しかしこれもかわし、今度は完全に間合いを切った。


(…強い…。)


振りが洒落にならないほどに速い。恐らく、合い技になれば俺が負けるだろう。


(だったら最速で…急所に一撃必殺を…。)


俺は呼吸を整え、少しずつ相手の間合いを探った。

俺は自分の間合いの3歩前から足を止め、ジリジリと間合いを詰めた。

すると、俺の間合いの2.75歩ほど前で、相手の剣先が敏感になりはじめた。


(ここから間合いか…!)


2.75歩はあまりにも遠い。飛び込んで技を出すにしても、5寸ほど手前で落ちる。

こうなると俺の勝ち方は三つに絞られる。

一つ。相手の技を返して斬る。しかしこれは相手の技を見切った前提の話だ。今のところ見切れる様子はない。

一つ。相手に予想外が起こる。靴紐が切れたり、虫が目の前を通過したり、足がぬかるむなどだ。しかし、それは地の利や天候を生かしたりしていない以上、あまりに運頼みすぎる。

そして、最後。


(相手の一瞬の隙をついて間合いを詰め、そこからさらに飛び込み技…。)


はっきり言ってこれも現実的ではない。通常の遠間からならともかく、これほどの遠間からとなると、相手は目で見てから反応することができる。

しかし、だからと言って何もしなくては勝ち目はない。

技を見切るよりも、技を出す方が勝算がある。


(やるしかない…。)


こういう手練れ相手には、一瞬の隙が生まれる瞬間がある。それは、集中を高め合って、お互いに気迫が五分になる一瞬前だ。

手練れは、いつ気迫が五分になるかを分かっている。

であるからこそ、その五分になる瞬間を勝負の瞬間だと錯覚する。

勝負の一瞬前というのは、意識が相手から自分に変わる瞬間。そこに隙が生まれる。その合図は、手元に出る。

俺は剣先を伸ばし、気迫をぶつけた。

それに答えるように、シモンさんも気迫をぶつけてくる。

そして、お互いの気迫が高まっていく。

そして、やがて勝負が近づき、シモンさんの手に力が入る予感がした。


(…ここ。)


俺は目一杯に飛び込んだ。

その丁度後にシモンさんの手に力が入った。タイミングはドンピシャだ。

しかし、シモンさんは化物じみた反応速度で技を出してきた。


(やばい…!)


俺は半身になり、棒の先端を左手で持ち、体を目一杯に伸ばして突いた。

シモンさんもその突きに反応していたが、技を出していたので体は空中にあった。

それで、俺の突きをかわすことはできなかった。

突きはシモンさんの喉の部分をとらえた。

俺はシモンさんに勝った。


「…ふぅ。」


すると、シモンさんは棒を離して大いに笑った。


「ハッハッハッハッハ!勝負ありだな!左片手一本突きか!まさかプカクがここまで強くなっているとは!こりゃ参ったな!」


すると、それを見ていた姫様の頬が膨らみ過ぎて赤くなっていた。


「シモン!何で負けちゃうんですか!手加減は無用と言ったはずです!」

「いやいや、本気でしたよ。ただ、彼の方が一枚上手だっただけです。」


すると、シモンさんが俺に握手を求めてきた。


「ありがとう。いい勝負だった。もし、騎士団に入団したくなったらいつでも言ってくれ。俺からも推薦する。」

「ありがとうございます。でも、入団するつもりはありませんから。」


すると、姫様はポカポカとシモンさんを殴りながら駄々をこねてきた。


「もう一回やってください!次は勝てるでしょう!?」

「…姫様。確かに次にもう一度戦えば、私が勝つかもしれません。ですが、戦闘に次は無いんです。負けた者は、潔く負けを認めるべきです。」

「むぅぅぅーーっ!」

「それに、もう一度やってしまえば賭けが破綻してしまいます。勝つまでやるわけでしょう?」

「…そうですね…。」


すると、姫様は親指の爪を噛んだ。


「シモンを打ち倒すほどの実力者…。欲しいです…。」

「いえ。勝てたのは偶々ですので。」

「その偶々がある時点で並より遥かに強いんですよ!」


すると、親父が口を開いた。


「おいシモン。装備の話はもういいのか。」

「ああ、そうだった。申し訳ありません姫様。今から私の装備を新調して貰いますので、少し待っていて貰えますか?」

「ええ。元々私が勝手についてきたのです。私のことは気にしなくて良いですよ。」

「さっき化物に襲われていた姫様が何をおっしゃいますか。」

「ぐぬぬ…。」

「くれぐれも、私が採寸をしている間に何処かへ行ってしまわれないでくださいよ!」

「分かりましたって…。」

「おい。プカク。しばらく姫様を視ておいてくれないか。」

「分かりました。」

「…子供じゃないのに…。」


俺は自分の剣を腰に差し直し、姫様を見張った。


「じゃあ、私たちは採寸に行ってきますので。」

「はーい。」


姫様は手を振ってシモンさんと親父を見送った。


「…行きましたね。」


すると、姫様は忍び足で俺のところに来て、耳打ちをした。


「プカク。こっそり抜け出して、この村を案内していただけませんか。」

「嫌です。」

「何でですかー!」


耳元で大声を出され、耳鳴りが起こった。


「…姫様の監視が俺の仕事ですから。」

「あなたの仕事は私を見ることだけですよ?」

「『視る』ことが仕事です。そしてそれは監視という意味です。」


すると、姫様はジトッとした目で睨んできた。


「…あなた、何というか少し無機質な感じですよね。」

「ありがとうございます。」

「誉めてないです。何というかこう…機械的というか…。感情が見えにくいです。」

「戦いにおいて、表に見えるほどの感情の起伏は隙になります。だから、常に平常心を保っているんです。」

「でも…それって悲しくありませんか?皆と笑いあったり、悲しんだりもできないんでしょう?」

「いや、普通に笑いますよ。腹を割っている相手なら。」

「あ…。そうですか…。意外ですね。あまりあなたが笑っている姿は想像できません。」


すると、少し考えてから、姫様は跳ねるように言った。


「それって私にはまだ心を開いていないってことじゃないですか!」

「はい。」

「く…!これは何とかしてあなたを笑わせたくなってきました…!」


すると、姫様はこめかみをグリグリしはじめた。


「こんな時に漫談師でもいればいいんですが…私の頭では面白い話を作れません…!」


(…別に、笑ったから腹を割っているということでもないんだが…。)


「…!思い付きました!よし…行きますよ…『猫が寝転んだ!』」

「…猫って何ですか。」

「え!そこからですか!?猫、この辺りの山にいないんですか!?」

「化物ならいます。後は狐とか狸とか犬とか。」

「うーん…。猫がいないのは予想外でした…。」

「どんな生き物なんですか。」

「そうですね…狐くらいの大きさで、毛がモフモフしていて、キリッと凛々しい生き物です。」

「狐じゃないですか。」

「狐じゃないです。狐よりももっと可愛いです。」

「へぇ。」

「…はっ!最初は村を案内してほしいという話だったのに、いつの間にか話の主旨が変わっています!策士め!」

「姫様が無機質だとか言い始めたからでしょう。」


そんな話をしていると、遠くから声が聞こえてきた。


「化物だ!!家の中に隠れろ!!」


俺はその声を聞いて、刀を差し直した。


「すみません。ちょっとここで待っていてください。」


俺は走って声のした方向に走った。


(…この方向、カナの家か?)




予想は的中し、カナの家の畑に着くと、化物が出ていた。

化物は収穫寸前の野菜を次々に食っていた。

俺は刀を抜いた。


「おい化物。こっちだ。」


すると、化物は俺を見るなり驚いて逃げようとした。


「逃がさんぞ。お前は畑を荒らしたんだ。戦いは避けられない。」


俺は走って間合いを詰め、その首筋を斬った。

見事に急所が斬れ、そのまま化物は倒れた。


「…ふぅ。」


すると、カナが泣きながら抱きついてきた。


「ありがとぉー!プカクゥー!本当に怖かったよぉー!」

「すまんカナ。重たいからどいてくれないか?」

「重たいとか言うなぁ!傷つくだろぉ!」

「ごめんって。」


それでもカナは暫く俺に抱きついていた。

カナが抱きつくのを止めると、俺は腰から短刀を抜き、いつものように肉を切り分け、臓物を切り刻んで捨て、骨を砕いて埋めた。


「本当にありがとう…。」

「どういたしまして。」


まだ半泣きのカナは、鼻を啜りながら聞いてきた。


「…プカク。あの人は?」

「あの人?」


俺はカナが指差した方向を見た。


「あー…。」


姫様がいた。


「ソフィア=スプヤさんだ。」

「ソフィア=スプヤさん?ソフィア…スプヤさん…?…スプヤさん…。スプヤ様!?」


急に顔色が元気になった。


「知ってたのか。」

「流石に知ってるよ!私達の国の王女様でしょ!?何でこんなド田舎に一人で立ってるの!?」

「それは俺も知らん。家にいろと指示したはずなんだが…。」

「…私、握手してもらってくる。」


そういって、カナは姫様の方に走って行った。

俺はその風景をぼんやりと眺めていた。

カナは姫様に一方的に話しかけると、勢いのままに握手をした。

姫様の方は少し状況を飲み込めていない様子だった。

しかしそんなこともお構いなしにカナは何かを話している。

俺は姫様を救出するために二人の方に向かった。


「おいカナ。その辺にしとけ。」


しかし、カナは俺の声など耳に入っていない。


「へぇー!ソフィーってお姉ちゃんいるんだ!」

「ええ…まあ…。」


(もう姫様をあだ名呼びしてる…。)


「お姉ちゃんは何ていう名前なの?どんな人?」

「ええと…姉の名前はシャーロット=スプヤといいます。姉はよく分からない人です。王族なのに、急に北の方の村に家出してしまったんですよ。」

「え!家出!?なになに?男?駆け落ち?」


流石にズカズカと他人の家の事情に入り込み過ぎていたので、俺は無理矢理カナの口を塞いだ。


「ムゴッ」

「姫様。何でここにいるんですか。俺は家の前で待っていろと言いましたよね。」

「ムゴゴームゴー!」

「だって…化物が気になったんですもん…。」

「ムゴゴゴッゴムゴゴゴゴモッゴモゴゴゴゴ!」

「姫様は前科一犯なんです。自分勝手な行動は慎んでください。」

「ムゴゴムゴー!ムゴゴゴムーゴムーゴ!」

「そんなに制限することないじゃないですか…。」


すると、急に手に痛みが走った。


「痛っ!カナ、お前俺の手を噛んだな!」

「いつまでも私の口を塞いでいるからだよ!私だってソフィーと話したいんだい!」

「てめぇ…!」

「ねえねえソフィー。王宮の中ってどんな感じなの?やっぱりキラッキラなの?」

「え?えーっと…」


仕事なので、俺は姫様を引っ張っていった。


「帰りますよ。親父に怒られるのは嫌なので。」

「「えー!?」」


二人揃って、落胆した。


「もっとソフィーとお話ししたいー!」

「私ももう少し村を見て回りたいです!」

「…俺の家で話すなら勝手にしろ。村を見て回るのは却下です。」

「やったー!」

「むぅぅぅぅ…。」


カナは俺達の横をトコトコとついてきた。


「ねえねえ、ソフィーは好きな料理とかある?作れそうだったら私が作ってあげるよ!」

「好きな料理ですか…。これといってこだわりは無いんですが、強いて言うなら郷土料理ですね。色んな地方の味っていうんですか?それが好きで。旅の楽しみの一つでもあるんです。」

「郷土料理かー。プカクー。うちの村の郷土料理ってなんだろ?」

「ヌィペフイベだな。」

「それ、プカクしか食べないから。」

「北の方ではメジャーらしいぞ?」

「嘘だー。」

「あの…ヌィペフイベって…?」

「化物の肉の塩ゆでと、生の化物の脳ミソを、少しの生き血と酒と一緒にかき混ぜたものです。」

「ヒィ…!」

「ほらー。ソフィーが引いてるじゃーん。」

「うまいんだって。特に脳ミソが。子供の時はそんなに好きじゃなかったんだが、大人になるにつれて好きになった。少し塩を濃くすると、米と凄く合う。」

「そんな郷土料理が…怖いですけど、一度食べてみなくてはいけませんね…。」

「あ、ソフィー。食べなくていいよ。プカクが異常なだけだから。」

「後はそうだな…。蜂の子とかか。」

「それは…食べてるけどさ、郷土料理ではないでしょ。珍味に近いじゃん。」

「あ、私、蜂の子食べたことありますよ!凄くクリーミーで、パンに合うんですよね!」

「まさかのソフィー体験済み!?」

「これでも色々な場所に旅をしてきたので。でも、未だかつて化物の脳ミソは食べたことないですね…。」

「私なんて蜂の子すら食べたことないよー。」

「後はまあ、山菜の釜飯くらいだな。」

「そうそう!そういうのが言いたかった!」

「山菜の釜飯ですか。美味しそうです!」

「よし!じゃあ決まり!今日のお昼ご飯は釜飯ね!プカクー。私、山菜採ってくるから、プカクは米洗って用意しといて!」

「おい!何で俺の家で作ることになってるんだ!」

「いーじゃん!皆で食べた方が美味しいって!」

「…五人分頼む!家に来客も来てるんだ!」

「はいはーい!」


段々声が遠くなっていくカナを眺めながら、俺はまた家の方に向かった。

すると、姫様がおもむろに質問をしてきた。


「…あなたは、あの方とお付き合いをされているんですか?」

「いえ。ただの腐れ縁です。」

「フフフ!そうですか。でもあなたは、あの方のこと好きなのでしょう?」

「…別に。特別な感情はありません。」

「でも、あなたがあの方と一緒にいる時、大分楽しそうでしたよ?口調が変わっていました。」

「…気のせいですよ。」

「…あなたは、この村に無くてはならない存在なのですね。」

「それは村の人間に聞いてください。俺自身では到底知ることはできないことなので。」

「いえ。見ていたら分かります。あなたを必要とする人がいる。あなたを求める人がいる。あなたを好きな人がいる。…こんな姿を見せられれば、無理にあなたを騎士団に入れることはできませんね。」

「…。」

「すみません。今までしつこく、あなたに入団を持ち込んでしまって。金輪際、強要はしませんので。」


俺はそれを聞きながら、軽くため息をついた。


「あの…それでですね…?その交換条件と言っては何ですが、この村を案内して…」

「却下です。」

「むぅぅぅぅーー!」

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