フミキリ

七森 かしわ

無題

死という概念は、今や人間のすぐそばにある存在、いや、もはや親しみのある隣人というぐらい馴染みのあるものになっている。

Twitterでちょっと探してみれば、死にたいってフレーズがそりゃもう沢山だ、悲痛な叫びが僕の心を満たす。

また、死ねという言葉はジョーク、コメディとしても使われる。死ねという暴力的なフレーズは面白いほどに人の感性を刺激する。






午後5時ってのは憎たらしい時間だ。特にこんな、湿気が高くて、まだまだ俺はここに居てやるぞ、具体的にはあと2時間弱ぐらいだぜって太陽が窓から俺の狭い部屋を照らす。虚無感。

それだけが支配する。

少しぼやけて世界が見えるのは、まだ眠いのか、それとも涙が出ているのか。目を擦る。どうやら前者のようだ。ぼんやり虚無感@AugustPM5。お送りするナンバーはエアコンの駆動音のワルツ。

重たい布団をひっぺがして上半身を起こす。枕元にはしまむらで買った500円のTシャツ。

何もしない夏休みってのも罪なものだ、襲うのは虚無感と焦燥感。かといって何かしたって辛いのさ。

さて何をするか別に減ってねぇな腹は。溜まった課題?馬鹿め、高校生の本文は学業ではないのだよ。言わば俺は、エリートと呼ばれるような奴らに飽きたのさ、奴らは努力家で才能もあるが使い方が下手くそだ、将来の心配しかしない生活は果たして輝くのか。いや、中高一貫も折り返し地点だと言うのにまだ100%の努力が出来ない俺がその事に関しての発言、いやその事を思考する権利さえあるか分からないからもうやめておこうか、と物思いにでもふけってセンチメンタルな気分に身を任せようかとした俺を邪魔したのは携帯のコール音だ。

「…俺だ」

ちなみに説明するがこのカッコつけてるかのような電話に対する第一声だがこれは中学生の頃のクセである。どうやら1度カッコイイと思ったものはなかなか体から出ていってはくれないようだ。

「おい!大変だ、哲郎が自殺したらしい、場所は五日町踏切だってよ、おい、どうすんだよ!」

どうやら人が死んだらしい、しかし、俺の友人に哲郎という人間は遠い昔居たような気がしないような気がしないので、多分いない。

「はあ。焦っている所申し訳ありませんが、間違い電話だと思いますよ、なぜなら私は貴方の声に聞き覚えがありませんからね」

俺は極めて落ち着いた声で言葉を紡いだ。

「…え?ああ、本当だ、すみません。」

電話は切れた。

しかし、嫌な間違い電話だ。誰かが死んだなど、自分の知人でなくても聞きたくは無いものだ。しかし、その恐怖というか嫌悪感というか…名状し難い感情の裏で、俺の裏では人間を進化させてきたとても強い欲求、好奇心があった。

それは俺が再びベッドへ寝転んでも収まらず、ついに私は好奇心に敗北し、その自殺現場とやらを見に行ってみることにした。いや、好奇心ではなく、もしも自分の知り合いだったら大変だからという最もらしい理由で自らを騙し、その踏切へ向かうことにした。

幸いというのもおかしいが、その踏切まで行くのは容易だった。自転車のペダルが軋む音と、少し乱れた呼吸、そして外界からの音が夕暮れの街を支配する。ふむ、なるほど、その踏切と思われる場所は警察や俺の様に見物に来た人間でいっぱいだからすぐ発見できた。念の為何があったかそこにいる人の良さそうなエプロンを来たオバサンに話しかけてみよう、マイクチェックワンツー。

「すみません、随分人が集まっていますが、何かあったのでしょうか?」

「ああ、自殺らしいですよ、それも高校生。まだ若いのにねぇ。」

なるほど。高校生。タメかひとつふたつ年上くらいか。そう思うと他人事ではないな。その踏切の光景は異様で、泣く人、意味もなく死因を推察する人。何も言わずに見てる人(俺も該当する)走ってここから去る人。ふむ、人と言うのはやはり1様ではないようだな多様性の社会とは口先だけではないようだな。しかし俺も何度か自殺を試みた事があるが、実際するとこんな感じなのかなるほど。

俺は5分ほどそこを眺めていたが、次第に警官も増え、日も赤くなって来たので立ち去ることにした。俺は来た道とは違う線路沿いの道を帰った。その途中だ。

道端にペンケースを見つけた。鉄製の。ステッドラーと書いてあり、気のせいか夕日のせいか、紅に染まっているように見えた。手に取るとそれはベタっとしており、俺はその紅の招待を瞬間的に察した。

しかし手放しはしなかった、中からはみ出る紙のようなものが気になったからだ。大体何なのかは分かっているのだが、分かっていながら開けるのは失礼で不謹慎であるだろう、ここは偶然を装うと自分をまたしても騙し、蓋をあけ、中身を確認した。日々の入ったプラスチック製のシャーペン、定規、消しゴム、割れた赤ペン。そして折りたたまれたB5の紙。それら全て、紅、いやもう隠さなくていいだろう、生暖かい鮮血に染まっていた。顔がひきつるのが分かり、脂汗が額から分泌され、心拍数が上がるのが分かる。しかし手は止まらない。俺の手はB5の紙へ延ばされ、それを開く。それは鮮血に染まっていたが、最初の2、3文はかろうじて読むことができた。

「僕を殺したのは、この世界と人間だ。

期待と羞恥、責任と裏切り。そして何よりもそれを対岸の火事として見ている第三者だ。死をジョークとして扱う自称人生辛くて死にたい奴らだ。醜い世界とはもう別れを告げる。」

俺は読み終わってから、全てをペンケースにしまい、元通りにした。それから、自転車のスピードを早めて帰った。

押しつぶされそうになったからだ。果てない闇に。

好奇心に駆られ、踏み込んでしまった自分の後悔、恐怖心、焦燥感。そんな闇だ。そして何より、

何かがいるような気がしたから。動悸が激しくなり、思考がかき混ぜられるのが分かる。解放されたいが、それは無理だろう。そいつが喋るのだ。



死ハ、存ざイの消シツは君をタすけナいヨ。

生は、こコにイル事は君のクびを絞メルヨ。



え?僕の名前?哲郎。

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