1-13

「ところで、お前さんはこれからどうするんだ?」




「どうするとは?」




「こんな世界だ。お前さんの住んでいた世界の常識が通じないことがこれから何度も起きるだろう。身の振り方を早めに考えた方がいいと思うぞ。」




リュカの言いたいことは理解できた。


この世界は、もはや自分が知っている日常の延長線上にはない。


今までの日常通りの生活ができる保証はどこにもない。




さらに残酷なのは、自分が進学しようとしていた大学がこの世界には存在しないという現実だ。


学生としての未来が閉ざされる可能性もある。




この状況下で、生き延びるためには、ただ何もしないという選択肢が最も危険ではないだろうか。




「自分は……」




手元の笛に視線を落とす。


リズが自分に冒険を誘ってくれたときのことを思い出した。




あのときは、将来への不安や迷いが先立ち、勇気を出して答えることができなかった。


だが、今なら――今ならその答えを出すことができる。




自分は決意を固め、リュカに向き直った。




「リュカさん。」




「ん?」




「戦う力を教えてほしい。リズみたいに冒険家として生きたいと思った。でもさっき見たこともない生き物と戦ったときに感じたんだ。もっと力が必要だって。そうしないと、この世界では生きていけないと思う。」




リュカは一瞬驚いたようだったが、すぐに大きな声で笑い出した。




「はっはっはっ!お前さん、なかなか言うじゃないか。」




普通の人間なら、実態のつかめない異界を旅するなんて発想には至らない。


危険すぎるからだ。




だが、この目の前の若者は異界とは縁もゆかりもないにもかかわらず、旅をするために力を身につけたいと言っている。




リュカは、この素人にどれだけの可能性が秘められているのか、見てみたくなった。


普段はあまり他人を鍛えることはしないが、彼なら教える価値があるかもしれない――そう思わせる何かがあった。




「こいつは驚いたな。リズみたいに色々な世界を見て回りたいだと?大胆な決断だ。確かに、お前さんの言う通り、この世界で生き延びるには力が必要だ。だが、少し鍛えてやれば、生き延びる確率はぐっと上がるだろう。」




「じゃあ……」




「そうだ。最低限の戦い方くらいは教えてやる。だが、そこから先はお前さん次第だ。」




「ありがとう!」




こうして、自分の長い冒険の旅が始まろうとしていた。




この旅がどんな運命を待ち受けているのか、現時点では全く分からない。


それでも――新たな目的を得た自分は、胸が高鳴るのを感じていた。




まるで、心の中に新しい風が吹き込んできたかのように。

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