1-12

声をかけてきたのは、狼の顔をした鎧を身につけた男だった。


ゆっくりとこちらに近づいてくる。




「遠くから見ていたが、ザコとはいえ、あのモンスターを倒すとはな。この辺りには、そんな力を持つ者はいないと思っていたが」




「…あんたは?」




「おっと、俺は怪しい者じゃねえ。リュカ・ウルフだ。戦士団ギルドでマスターをやってる」




「ギルド?」




そういえば、今回の件でリズが調査依頼を受けた相手もギルドだと言っていた気がする。




「ギルドってのは、依頼を受けて問題を解決するお助け屋みたいなもんだ。戦士団ギルドは、討伐系の依頼を主に引き受けている」




どうやら怪しい狼男ではなさそうだ。ジュンは自分の名前を名乗った。




どこまで信じていいか分からないが、この男が情報を持っている可能性もある。




「なるほど、悪くない行動だな。この俺がどこまで信用できるか、見極めようとしているわけか」




この男、相当な修羅場をくぐってきたに違いない。


こちらの考えはほぼお見通しのようだ。下手に隠し事をしても通じそうにない。




「こんな状況だ。いきなり何があっても疑いたくなる気持ちは分かる。


信用しろって言う方が無理があるよな」




「まあ、そうだね。でもさ、ギブアンドテイクってことで、お互い持っている情報を交換できないだろうか」




ジュンは、リズと出会い戦う力を得たこと、この町に潜んでいたギガロという男が世界を巻き込んだことを語った。




「なんと、リズとギガロを知っている者がいるとはな」




「リズやギガロを知ってるの?」




「ああ。リズに今回のことや組織の話をしたのは俺だ。それに、ギガロはリズが追っていた組織の一員だ」




「その組織って何者なの?」




「残念ながら、俺たちも全てを知ってるわけじゃない。管理局が追っている組織らしいが、どうせロクでもない連中だろうな」




「管理局?それって何?」




そういえば、ギガロも言っていた。リズは管理局の人間だと。


ギルドからの依頼を受けていたらしいが、本来はどんな仕事をしているのだろう?




「そっか。お前さんは知らないのか。この世界にはいくつもの異界が存在していて、それぞれが交流している。


管理局ってのは、異界同士の秩序と平和を守るため、あらゆることを取り仕切る組織だ。


リズも管理局の人間で、異界の情報を収集して本部に送る仕事をしてたはずだ」




リズが旅人を名乗っていたのは、こういうことだったのか。




だが、次々と新しい情報が出てきて頭が追いつかない。


自分たちの世界が別世界に巻き込まれただけでも衝撃なのに、そこに組織や管理局まで関わってくる。




ジュンは一番気になることを口にした。




「結局、ここはどこなの?」




「そうだな。俺の見立てでは、この世界は、いくつもの異界から部分的に切り取られて集められたものだ」




リュカの考えによると、この世界はジュンの住む世界も含め、数々の異界が混じり合ってできたものだという。


どれほどの異界が集められたのかは分からないが、ギガロの装置がそれを引き起こしたらしい。




「そんなことがあり得るのか…?」




新たな世界を作り出して、ギガロやその組織は一体何をしようとしているのか。


疑問は深まるばかりだった。

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