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否。どうやら、世界の改変は確実に起きてしまったようだ。
家の窓から、当たり前のように見えていた景色がいくつも変わっていることに気づいた。
例えば、数年前に建設されて話題になった日本一高いタワー。普段はどこからでも見えるあの巨大なランドマークが、今は影も形もない。
これから導き出される結論は二つだ。
タワーそのものがどこか別の場所に消えたのか、それとも、この街全体が異なる世界に飛ばされてしまったのか。
ジュンは慌ててスマホを取り出した。
「……繋がらない。」
電波の表示が一切ない画面に、ジュンの心臓がぎゅっと縮こまる。
つまり、残る結論は一つ。
この街が別の世界に飛ばされたのだ。
「……マジかよ……」
それしか言葉が出なかった。いや、それ以外、何を言えばいいというのだ。
目の前で起きている非現実的な出来事に対し、なぜかジュンは冷静だった。むしろ、あまりにも現実離れしすぎていて、実感が湧かないのかもしれない。
外を見渡すと、街中の人々が騒ぎ始めている。
「……まあ、普通はそうなるよな。」
誰だって、突然こんな状況に放り込まれたら取り乱すだろう。
しかし、その混乱を眺めるうちに、ふと新たな疑問が浮かんできた。
そもそも、この異世界に巻き込まれたのは自分たちの街だけなのか?
視界に映る街並みは、確かに江戸川町そのものだ。だが、外界との繋がりが完全に断たれている以上、この地域全体が他の世界と隔絶されている可能性が高い。
「……でも、どうやって確かめればいい?」
ジュンが途方に暮れていると、不意に足元から「プルン」と奇妙な音が聞こえた。
振り返ると、見たこともない生物がそこにいた。
青いゼリー状の体を持つその姿は、どこかファンタジーの世界でお馴染みのスライムに酷似していた。
「嘘だろ……スライム?」
だが次の瞬間、その生物が素早く跳躍し、ジュンの腹に激しく体当たりしてきた。
「うっ……!?」
予想外の力に、思わずうずくまる。柔らかそうな見た目とは裏腹に、その衝撃はかなりの痛みを伴っていた。
「……こいつ、本気で襲ってきてるのか!」
ジュンは咄嗟に拳銃を取り出し、発砲する。しかし、弾丸はスライムの弾力ある体に吸い込まれるように消え、効果はまるでない。
「くそっ、効かないのか……だったら!」
ジュンは意を決し、武器のストックから剣を引き出した。
大きな両手剣だ。扱い方は全く分からないが、もしこれが自分に適性のある武器なら、なんとかなるかもしれない。
剣を両手で握り、全力で振り下ろす。
ズバン!
鈍い音とともにスライムが大きく弾き飛ばされ、地面に転がった。
「……効いた、のか?」
再び構え直し、今度は追撃を加えるべく剣を振り回す。刃の面積を利用して全力で叩きつけた。
スライムは一度大きく痙攣し、動かなくなった。
「……はあ、はあ……くそっ、こんな状況、どうなってんだよ……!」
肩で息をしながら周囲を見渡す。だが、奇妙な生物が現れた理由も、この異常な世界の変化も、何も分からない。
そんな中、不意に背後から重々しい声が響いた。
「ほう……この世界にも戦う力を持つ者がいるようだな。」
ジュンは身構えた。振り返ると、そこにはまた見知らぬ人物が立っていた。
次の戦いが始まることを、彼は本能で悟った。
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