1-9

ギガロが倒れた。




リズが殺されそうで、反射的に引き金を引いてしまったが、これで人を殺してしまったのだろうか…?




胸の中に恐怖が広がる。




「ジュン…大丈夫…?」




「う、うん…」




戦う力を得たとき、いずれこうしたことも経験しなければならないと覚悟していたつもりだった。それでも、初めて人を撃った感覚が心に重くのしかかる。




「ほう…私を倒すとはな…」




驚いた。倒れたはずのギガロが、再びゆっくりと立ち上がる。




「おっと、今の私は戦う力を失ったただの抜け殻だ。だが、死ぬ前に一つ良いことを教えてやろう。お前が倒したのは、私のレプリカに過ぎない。それでも、レベル5相当の強さだったがな。もっとも、この調整が甘かったようだ。倒されるとは思いもよらなかったが」




その強さでレベル5…? リズよりも格下だというのか。信じられない。




「本物の私は別の場所にいる。そして、次の計画は着々と進行中だ」




「教えろ! あなたは何をしようとしている?」




「世界の改変だ。この世界を新たに作り直す、それが我が目的。計画はすでにほぼ完了し、間もなく実行される」




ギガロは懐から小さな装置を取り出し、ボタンを押した。




瞬間、部屋中に不気味なブザー音が響き渡る。




「これで計画は動き始めた。言っただろう。プログラムはあと一手間で完成すると。これで止められる者は存在しない」




ジュンの胸に不安が押し寄せる。すべてギガロの計画通りだったというのか。




「世界改変のプログラムが起動すれば、この体も不要になる。まあせいぜい、改変後の世界を楽しむがいい」




ギガロのレプリカはそう言い残し、灰のように崩れ落ちた。




だが、それより問題なのは、世界改変が現実のものとなることだ。自分たちがどうなってしまうのか見当もつかない。




「リズ、ここから逃げよう!」




「待って。脱出用の魔法陣を用意したわ。この中に入れば外へ出られる」




ジュンの足元に魔法陣が浮かび上がっている。さすがリズ、こうした事態への準備が早い。




だが、魔法陣を見て、嫌な予感がした。




「リズ、この魔法陣…狭いような?」




「ジュン、ごめん。この魔法陣は一人用なの」




「え?」




リズは冷静に線を描きながら、ジュンに説明を続ける。




「ギガロはこの装置に、改変後に再起動しないよう爆発する仕掛けをしているわ。私はその爆発の被害を抑えるため、防御魔法を使わなきゃならない。あなたはここから脱出して」




「そんな…君も一緒に逃げればいいじゃないか!」




「できないの。さっきのギガロの攻撃で、足をひどくやられたわ。走って逃げるのは無理よ。せめて、君だけでも助かって」




リズの覚悟に、ジュンの胸が締めつけられる。




「ごめんね。でも、助けてくれて本当にありがとう。これを君に託すわ」




リズは首から下げていた笛をジュンに手渡した。




「この笛の秘密を解き明かしてほしい。君ならきっとできる。ジュン、あなたなら――」




リズが最後まで言い終わる前に、魔法陣が光を放ち、ジュンを包み込んだ。




「リズ! 待って!」




ジュンの声が届く前に、彼の姿は消えた。




リズは魔法陣の輝きが消えたのを見届けると、深く息をついた。そして装置に向き直る。




「さて、やるしかないわね…」




リズは最後の力を振り絞り、最大の防御魔法を展開する。




機械が起動し、部屋全体に不穏な音が鳴り響いた。次の瞬間、世界改変装置が光を放ち始める――。

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