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「とりあえず、病院行くか?」


スマホで119をかけようとすると、リズが慌てたように言った。


「ちょっと、病院はやめて!頭は正常よ?信じて!」


いきなり「冒険家」と言われても信じる方が難しい。

しかも、彼女の言う冒険家とは、「色々な世界を巡る旅人」のことらしい。


その「色々な世界」というのは、自分たちが住むこの現実世界とは別の、異次元の世界を指しているそうだ。さらに、異次元の世界は無数に存在するらしく、100や200なんて数えられるものではないらしい。そして驚くべきことに、異界同士で交流があるという。


世の中、広すぎだろ。


だが、こんな話をどう信じたらいいものか……。


「う……確かに、この世界は他の異界と交流が無いみたいね。信じる方が難しいのは事実だわ……」


リズがしょんぼりと呟いた。

まあ、新手の詐欺だとしたら、何かしら被害に遭っているはずだ。でも、今のところ彼女は無害そうだし、嘘をついているようにも見えない。


「まあいいや。リズの話を信じてみるよ。」


どうせなら信じた方が面白そうだ。それが自分のスタイルだ。

リズの顔に、ぱっと明るさが戻った。


「ありがとう、ジュン!」


「それはそうと、どうして家の玄関に倒れてたの?」


「ギルドの仕事で、ちょっとドジしちゃってね……」


冒険にもお金が必要だ。リズはそのためにギルドで依頼を受けていた。今回の仕事は、ある組織を追跡するというものだった。


「その組織って?」


「ギルドにとっても厄介な相手でね。野放しにしておくと大変なことになるんだ。」


ギルドが掴んだ情報をもとに、その組織の動向を探るのがリズの任務だった。最初は気づかれずに追っていたものの、途中で察知されてしまい、逆に攻撃される羽目に。しかも、ただ追い払われるだけでは済まず、命を狙われることに。


リズは異界間をつなぐ扉を使い、逃げるようにしてこの世界に辿り着いた。結果、たまたま自分の家の玄関に出てしまい、そのまま力尽きて倒れてしまったのだという。


「へえ……」


そんな逃亡劇を聞かされても、にわかには信じがたいが、リズが申し訳なさそうに頭を下げた。


「偶然とはいえ、無断であなたの家に入ってしまったことはごめんなさい。本当に助けてくれてありがとう。」


「事情はわかった。でもさ、一つだけ気になることがある。」


「何?」


「リズを追ってたその組織が、ここまで追いかけてくる可能性はないの?」


「それはないと思う。扉を通る時に入力した異界の座標、適当に決めたから。」


適当って……。

だが、適当だからこそ追跡が難しくなるという理屈はわかる。とはいえ、そんな無計画な逃げ方をするなんて、ずいぶんとリスクが高い気がする。


「それでも、よくそんなリスキーなことをやったね。」


「それが冒険家ってものよ。」


未知の世界を恐れず、むしろ楽しむ。それが冒険の醍醐味だとリズは言う。


「まあ、分からなくもないけどね。」


どこか自分の趣味にも通じるところがある。

自分がやっていることを、リズはもっと大きなスケールでやっている。それが、少し羨ましくも思えた。

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