1章 現実とファンタジーの間で
1-1
東京、江戸川町。
ここから始まるのは、僕――陸奥淳(みちのじゅん)の物語だ。
「はぁ……」
3月も終わりに近づき、春の陽気が感じられる頃。
4月からの大学生活を前に、僕はため息をついていた。
その理由は簡単だ。
第7志望の大学にしか合格できなかったから。
平たく言えば、「滑り止め」だけの結果だった。
一応、現役で合格して浪人しないだけマシだと思う人もいるだろうけど、僕にとってはそう割り切れない話だった。
第1志望の大学は模試でA判定だった。
これまでの努力を続ければ合格は間違いないと信じていた。
けれど、結果は不合格の連続。
合格した大学はたった一つだけだった。
「一つでも受かればいいじゃないか」と思う人もいるかもしれない。
でも、僕にとってそれは大きな挫折だった。
高校受験も滑り止めしか合格できなかった苦い記憶がある。
だからこそ、大学だけは行きたいところに行くと心に決めていたのに。
合格圏という言葉がこんなに当てにならないとは思わなかった。
(まあ、落ちてしまったものはしょうがない……)
できるだけポジティブに捉えよう。
きっと、こんな経験をするのは僕だけじゃないはずだ。
努力さえ続ければ、いつか良いことがあるかもしれない。
とりあえず、外に出てみよう。気分転換が必要だ。
意味もなく散歩をすることは、僕にとって心を落ち着ける手段だった。
知らない景色には新しい発見があり、
知っている景色でも視点を変えれば意外な気づきがある。
外に出て色々な場所を歩き回るのは、ただ純粋に楽しい。
(もし叶うなら、世界中を旅してみたいな……)
ゲームや映画みたいな冒険をしてみたい。
知らない場所を訪れ、知らない人と出会う――そんな旅に憧れる。
でも、現実はそう甘くない。
この世界で自由に生きるには、ある程度の学歴や実力が必要だ。
それがなければ最低限の生活さえままならないのが現実だ。
だから、僕の「旅に出たい」という思いはただの現実逃避でしかない。
それでも、今目の前にある現実をどうにか受け止めて、
ここから逆転する方法を考えなければならない。
そうは思うけれど、結局何も思いつかずに家に戻る。
「こんな感じで、この先もずっと過ごしていくのかな……」
たかが18年の人生だが、
これだけ努力と結果が結びつかない日々を過ごしていると、
何もやる気が起きなくなる気がする。
頭に浮かぶのはネガティブな考えばかりだった。
(本当にどうしたものか……)
玄関のドアを開けたその時――目の前の光景に驚いた。
そこには、黒いローブを着た金髪の女の子が倒れていた。
一体どういう状況だ?
それ以前に、どうして知らない女の子が僕の家の玄関で倒れているんだ?
とりあえず、声をかけてみる。
「おーい、君、大丈夫?」
「う……ん……」
どうやら意識はあるらしい。
怪我をしている様子もなさそうだ。
だけど、こんな場所で寝られても困る。
無視するわけにもいかないし、仕方なく家の中に入れて寝かせることにした。
彼女をベッドに運びながら思う。
「まさか、こんな形で“お姫様だっこ”をすることになるとは……」
とりあえず、彼女が目を覚ましたら事情を聞こう。
それにしても、こんな状況でも意外と冷静でいられる自分に驚く。
普通ならもっと慌てたり、驚いたりしそうなものだけど……。
翌朝。
「うわっ、寝てしまった!っていうかここ、どこ?」
突然の声に目を覚ます。
「ふぁぁ……起きたのか」
「あなた誰!?」
「おいおい、人の家で倒れておいて、それはないだろう。
まあ、いいや。僕はジュン。ここは僕の家で、君は玄関で倒れていたんだよ」
女の子は少し申し訳なさそうにお礼を言う。
「そうだったの。ごめんなさい。助けてくれてありがとう。
私はリズ・アリアス。冒険家よ」
「ぼ、冒険家……?」
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