ケンカ?
「2人が何か大事なことを隠しているのは分かったよ?」
「……な、なんのことかしら?」
「俺が隠し事できるわけないだろ。だ、だよな?」
「はぁ…… 2人とも誤魔化すのが下手すぎ…… まったく仕方ないなぁ」
「「雨乃さん、許してくれるのでしょうか……?」」
雨乃はいつもみたいな周りにさえも笑顔を振りまくような表情ではなく、隠し事をしていたことを必死に誤魔化そうとする俺たちを見て呆れるように笑っている。
もしかしたら、「幼馴染に隠し事はナシ!」が信条の雨乃に許してもらえたのだろうか、とそう思っていた時だった。
「仕方がないから、話は聞かせてもらうことにするよ?」
目だけは笑っていない雨乃。それを見て俺と彩雪は死期を悟った。
そしてここにはもう1人置いてきぼりの人がいる。
「お前らはさっきから何なんだ! このボクを無視するとはいい度胸だな!」
「は? どちら様ですか? 私たちの会話に割り込むとかいい度胸してるね?」
「…………すいませんでした」
ストーカーの男は1人悲しく帰っていった。ご愁傷様。
そんなこと言っている場合じゃないけどな……
「それで? 何か弁明は?」
「お前って、こういう時になると語彙力上がるよな」
「は?」
「すいません。何でもないです」
1年に1回見られるかどうかの雨乃のガチギレシーン。それも彩雪も一緒に怒られているというので、数年に1回あるかどうかの更にレアなシーンだ。
それに油注ぐとか、俺ってバカなんじゃね?
「雨乃? その悪いとは思っていたのよ? だけど言い出すのは何だか恥ずかしくて…… 春樹に知られたのも偶然だったのよ……」
「それでも話そうとするのが幼馴染っていうものでしょ? 昔、みんなでそうやって約束したよね?」
「そ、そうだけど……」
ちなみに、この血生臭い会話が行われているのは俺の家のダイニングテーブル。
隣には雨乃に、一瞬で反論されてシュンとしている彩雪。向かい側には怒り狂っている雨乃。
そして、後ろにあるキッチンカウンターから顔を出してニヤケ顔をしているのは、母さんはじめ、俺たち3人の母親衆。いや、楽しそうにしているんじゃねぇよ……
「まぁ、サユちゃんは後で詳しく聞くことにして……」
「まだあるの……?」
彩雪はこの後も話をしなくてはいけないという事実に絶望していた。
そして、雨乃から彩雪への詰問が終わったということは、次の目的にかかるということだ。何が言いたいかと言うと、俺、シボウ。
「さてと、ハルちゃん? なにか弁明はある? ないよね? それじゃあどうして隠していたのかを話して。それと何を隠していたのかもね」
「え? 俺には決定権みたいのはないのか? 彩雪との扱いの差が激しすぎないか?」
「余計なことは言わないでいいから」
「すんません……」
あまりにも激しい雨乃の良いように俺は服従するしかなかった。
「まぁ、とにかく話してみて。ね?」
文章だけで見ればカウンセリングでも受けているかのように思われるが実際はそのようなものではない。なにせカウンセラーがカウンセラーあるまじき表情をしているからな……
「ね?」じゃなくて「ア?」と言ったほうが正しいのではないだろうか……
「えっと、仕事は趣味の延長線上で始めたんですよ。その楽器とか親父から貰ったのが結構あっただろ? それで色んな曲を弾いていた内に、物足りなくなっていたんだ。それならいっその事自分で作っちまえって思ってさ……」
雨乃は俺の話をフムフムと声を出しながら聞いていた。
そんな雨乃から目線を少し後ろに移すと、母親衆は「春樹くんもやるわね~」とか「春樹ってどこか抜けているよな」とか好きに言っている。
まぁ、話を続けていることにしよう。そうでなければ黙り込んでいる俺を見て、雨乃のイラつきが増しているからな……
「えっと、作っているうちに承認欲求的なのが沸いてきて、ネットにあげるようにしていったんだ。そしたら意外と評判が良くてな。しばらくやっているうちに、曲を作ってくれっていう依頼が来たのが、俺が仕事を始めた理由だ。最初は下手だったから、多少はうまくなってから、2人に話そうと思っていたんだ。そうしていたら、タイミングを失っていて今に至っている感じだ」
「「「春樹ってやっぱりバカなんじゃないの?」」」
「後ろの3人! あんたらうるさいぞ!」
「こら! ハルちゃん。静かにして」
「すんません……」
それからというもの、俺と彩雪は何とか弁明をしようとしたのだが、「なんとなく、恥ずかしいから」という理由で隠していた俺たちは雨乃の納得のいく答えを言うことができなく、ケンカしたまま話し合いは終わることになった。
彩雪は綾おばさんに、雨乃は雨乃の母親に連れて帰っていった。
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