ガールズトーク

「ねぇねぇ! キャンプの夜と言えば肝試しだよね!」


「「……は? 寝るけど?」」


「2人ともノリ悪すぎなんだけど!」


「いや、明日の朝も早いし。疲れも溜まってるし…… だろ?」


 どうして私と春樹が必死に雨乃を止めようとしているのかと言うと、春樹が言ったように疲れているからだ。本当にそれだけなのよね……


 どうしてこうなったかと言うと、夕食で雨乃がある事をしでかしたからだ。良い機会がある事だし、みんなには何があったのかは




「ウヒョー! 肉だぁ!」


「雨乃、少しは落ち着きなさい。そうね…… 春樹を見習って」


 あまりにも騒がしい雨乃に私は軽くたしなめた。それから春樹を見習うようにと言ったのだけど……


「あ? 呼んだ? あ、やべぇ。すまんあっちに戻るわ」


 春樹は火をおこしている最中だ。フーフーと火に向かって息を吹きかけている。


 顔を赤くして春樹は頑張っている。そんな中私と雨乃はお母さんたちと一緒に食材の下ごしらえをしている。……って、ちょっと!?


「雨乃! そうじゃないわよ! 一回手を止めなさい!」


 はぁ…… 何だか疲れてしまうわね…… それから私は雨乃と一緒に下ごしらえをしていったのだった。


 ちなみにお母さん達もお酒を飲んでいて酔っている。こういう言い方は悪いかもしれないけど……その、使い物にならない状態なのよ……




「彩雪、そっちはどんな感じだ?」


 しばらく実質私1人の状態で準備をしていたら、春樹の方の準備は終わったらしく声を掛けてきてくれた。

 春樹が火の準備をしていた方を見ると、確かにそこには火がと持っていて、お父さん達は既にお酒の缶や瓶を開けている。


「ふぅ…… 息を吹きかけても火なんて付かなかったから文明の利器で解決してやったぜ」


「やったぜ、じゃないわよ。雰囲気が台無しじゃないの」


「火がついていれば問題ないだろ」




 ここまでは料理の準備中に起こっていたことだ。これに関しては大して大変では無かった。

 問題になったのはそれからの事だ。


 何があったのかというと…… それはこの景色を見てもらえれば分かると思うわ……


 散乱したビール缶や缶チューハイは既に片付けられている。食べた時に使った紙皿や紙コップは……ちゃんと片付けられている。キャンプファイアーをしていた残骸はすべて片付けられている。


 気が付いたかしら? いま私は『すべて』と言ったのよ。


 実は私や春樹が見ていない時に、何が楽しかったのか雨乃がキャンプファイアーを遼さんしていたの…… 結果私たちはその処理をする羽目になって……


 あの数を処理するのは本当に大変だったわよ…… 春樹が雨乃に文句さえ言わなかったのだから。


 どんな様子だったのかは説明するのも恐ろしいわ……


 ここまで長く話しておいて言うことではないだろうけど、そんなことはどうでも良くてとにかく私たちは疲れているのだ。


「ねぇ、雨乃…… 今日は大人しく寝たらどうかしら?」


「そんなのもったいないじゃん!」


「俺はもう寝るわ…… なんか無性に疲れた。書かれていないだけでメッチャ働いていたっていう設定だし」


「春樹もやめなさいよ……」


 春樹は寝るとだけ言ってテントの中に先に入っていった。


「ねぇ、私たちももう寝ない?」


「むぅ…… 分かった」


 雨乃はようやく理解してくれたのか今日は寝ることを承諾してくれた。




「ねぇ。せっかくお泊りなのに寝ちゃうのって勿体なくない?」


「まだ言うか」


 テントで3人一緒に横になっていると、雨乃がまた何か言いだした。


 はぁ…… この子の体力は一体どうなっているのかしら…… 春樹も呆れているわ……


「えぇ~ だってまだ眠くないもん」


「お前の思考は何歳で止まってるんだよ。眠くないから寝ないって……」


「ハルちゃんだけには言われたくないです~ そういうこと言うなら毎朝ちゃんと起きてよ」


「彩雪、お前もなんか言ってやれ」


「私に面倒ごとを押し付けないでくれるかしら……」


 私と春樹が「あなたが止めなさいよ」「お前が言ってやらないと」という雨乃を止めようという面倒事の押し付け合いをしていたら、雨乃はテントの中においてある間接照明を付けた。


 私がどうしたのかと聞く前に雨乃は起き上がりバッグの中をまさぐり始めた。


「お前何やってんの? 明るくて眠いんだけど」


 春樹が思わず不満を垂らす。そんなことはお構いなしにと雨乃はお目当てのものを見つけたのかブランケットの中に潜ってから宣言した。


「あなた方にはこれから、このボードゲームをしてもらいます」


「何でデスゲームが始まりそうな雰囲気を出してんの? ……ちょっと待て、それどこから出した?」


「ん? ハルちゃんのバッグ」


「ふざけんなよ!? 俺何も知らなかったんだけど!」


 春樹は雨乃の行動にツッコミを入れ始める。疲れていた私は眠くなっていたので、雨乃をどうにかして説得しようと思った時だった。


「サユちゃんもやるよ!」


 雨乃の純粋な目を直で見つめて耐えられる人はいないわ……




 雨乃の我儘によって私と春樹が結局ボードゲームをすることになった。春樹は無視をして寝ようとしていたのだが、1人で雨乃の相手をするのはさすがに辛いと思った私が半ば強制的に参加させた。


「俺上がったから寝るわ」


「ちょ、ちょっと待ってよ!? まだ終わってない!」


「誰がどう見ても終わってるんだが…… マジで眠らせて」


「むぅ…… そこまで言うなら仕方ないなぁ。眠らせてあげる」


 雨乃がそう言うと春樹は「そうしてくれ。できれば最初から……」とだけ言い残して寝てしまった。さすがに春樹には悪かったかしら……


 そうして、このテントで起きているのは私と雨乃だけになった。


 雨乃が持ってきていたのは(春樹のバッグに入っていたけど……)昔から人気のあるボードゲームで、人の一生をモチーフにしたものだ。


 よっぽどの事がない限り、試合で大きな差が出ることはないのだけれども…… 雨乃だけはどうしてか半分の所も終わっていない。私は春樹と良い争いをしていて、もう少しで上がりそうなところだ。


 次に「4」の数字を出せばゴールできる。そう思っていたら、雨乃が真面目な声色で話し始めた。


「サユちゃんはさ、最近どう?」


「『どう』って特にないもないけれど……? いきなりどうしたの?」


「何となく聞いてみただけ。ハルちゃんもだけどね、2人とも最近大変そうにしてるなーって思ったから」


「大変な事なんて何もないわよ」


「そう…… それなら良かった! バンドに巻き込んじゃったの、なんか申し訳なかったから……」


 この子はいつも周りの人を巻き込んでしまう。それでもやっていいかどうかの線引きはちゃんとやっているように見えるし、私たちが大きな迷惑を被ることは滅多にない。


 そんな雨乃が心配になるほど落ち込んでいるのを見て私は「何か言ってあげないと」と思った。


「雨乃、いつも言っているじゃない」


 この言葉を私は既に寝息を立てている春樹を見ながらこう続けた。


「私たち3人は何があっても幼馴染だ!って。雨乃がそう言うんだもの、これからずっと一緒に居られると私は信じているわよ」


「うん、そうだよね……!」


 私の笑顔で私にそう返した雨乃。私にはそれがどこかぎこちなく見えた。

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