意識高い系はただただウザい

 朝、目が覚めたらすでに日は上がりきっていた、時計を見てみれば10時になっていた。


 昨日、というよりかは今日の朝方まで仕事をやっていた。締め切りは今日の夕方の打ち合わせまでだったので、早めに仕上げておきたかったのだ。


 前回は全くと言っていいほど進まなかった作業を2人が帰ってから手を付けてみると、思いのほか進んだ。結局、スランプに陥った理由は、雨乃の何が言いたかったのか分からず仕舞いになったあの言葉だ。


 とりあえず今日の予定は作詞家の人やミュージシャンの音楽事務所の人、そのミュージシャン本人との打ち合わせがある。その打ち合わせの時間は午後の3時からなので、時間的には余裕がある。


 そして彩雪と雨乃の2人も今日はそれぞれで予定があるそうなので練習をすることもない。ここ最近は毎日内容が濃かったので、久しぶりにゆっくりできそうだ。


 時間まではゲームでもして時間を潰そうか…… これがダメな高校生の例だ。課題? そんなの明日にだってできるだろう? まぁ、明日も同じこと言うんだけどね。


 そんなわけで俺は長く人気が続いているFPS(ファーストパーソン・シューター)ゲームを開いた。画面をみると、そこには半裸の男が銃を持って仁王立ちしていた。これは決して俺の趣味とかではなく、俺の使うアバターである。




「いけいけー! HaRu、全員倒しちゃえ!」


 ゲームを始めてから2時間後。俺はどうしてか舞花さんと一緒にプレイしていた。このゲームには1人、2人、4人で戦うモードがそれぞれあり、俺と舞花さんは2人で戦うモードをやっている最中だ。


最初は1人でやっていたのだが、途中でログインしてきた舞花さんからお誘いがあり、今はSNSアプリのボイスチャット機能を使って話している。


 その後、俺たち2人のチームは順調に敵を倒しつつ最終決戦へと勝負は持ち込まれた。


「やばっ! 撃たれてる! カバーしてー!」


「どこ!? どこな……ヤバい! こっちも撃たれた! 助けて!」


「ムリがあるよ! ってヤバい!」


「ちょっ、何が起こってんですか!?」


「やられた……」


 それから、俺も敵に倒されてマッチは終了。それにしても、かなりの大声を出してしまった…… 近所から苦情が来ないといいけど……


 実際にさっきまでの俺は1人で大声を出して騒いでいないようにしか見えないようで……


「アンタ、何やってんの?」


「母さん…… お願いだから見なかったことにして」


もうやだ。こんなの死ねるわ。




 舞花さんと遊ぶことで時間を潰した。それから、俺は依頼主の事務所で打ち合わせを始めた。


「最初の打ち合わせ通りのイメージを合わせましたので、ご確認のほうをよろしくお願い致します」


 それから、歌い手であるミュージシャン、そのマネージャー、特に作詞家の人とは2人で曲調の確認をしながら見てもらった。


 3人の反応はそれぞれであった。


 歌う本人であるミュージシャンは「最高じゃないっスか」と喜んでくれた。こういう時が作曲をやっていて嬉しいときだ。作詞家の人は「これなら、問題なく書けますね。それにしても、いつもいい曲をありがとうございます」と言ってくれた。お世辞でもこのようなことを言われるとやった甲斐があるものだ。


 しかし、この人が癖あるんだよなぁ…… すでに何度か依頼を受けているが、そのすべてで面倒になった記憶しかない。


 ワックスでベタベタになるまで塗り固めた髪。スーツを着崩すことなく着て、ネクタイを絞めている。いわゆる意識高い系ってやつだ。


 この人の場合は何かに秀でているわけでもなく、作曲について何かを知っているわけではない。それだというのに、俺の作った曲に口出しをしてくる。それも的外れな事なのだ。例えばこった風に……


「この部分なのですが」


 いや、どの部分だよ。仮にも音楽関係の事務所で働いているんだから、楽譜のよみかたくらい分かっていろよ。


「この曲調なのですが、イメージとは大分違う気がしますが」


「その部分はサビに入る前に一度落ち着かせることで、より一層サビの部分を際立たせる事が出来ますので、イメージとはたいしてかけ離れていないと思います。いわゆるAメロだとかBメロというやつですね」


 このように、この人たちと打ち合わせをすると基本的に俺がンマネージャーに作曲の講義をしているようになる。ちなみに、作詞家の人も同じようになるらしい。そのせいで、一緒に仕事をするときは愚痴の聞かせあいをすることになる。


 それから2時間ほどマネージャーに講義をして、今回の打ち合わせは終わった。2時間もどうやったら今回の打ち合わせに使うんだよ…… 他の2人眠そうにしているぞ……?


 事務所から出たら、時刻は5時過ぎ。それでも季節柄かまだ外は明るく、日が照っている。


 その日の光はスポットライトになったかのように、風でなびかせた黒髪で受けながら歩く少女を目立たせていた。他に通行人も多い中だというのに、俺にはその少女しか見えなくなったような気がした。


「春樹? こんなところでどうしたの?」


 その少女、彩雪は辺りを見渡していたからか、俺が彩雪を見ていたことに気が付いて話しかけてきた。


「さっきまで打ち合わせでここにいた」


「そういうことだったの」


「それよりも彩雪はどうしたんだ?」


「わ、私!? さ、さっきまでレッスンがあったのよ!」


 なにか挙動不審だな…… 大切なものでも無くしたのだろうか……?


「それはお疲れ様だったな。それで、なんか探しているようだったけど?」


「な、なんでもないわよ! それよりも、春樹はこの後予定あったりするの?」


「飯食いに行ってから家に帰る」


「着いて行ってもいい?」


「別にいいけど」


 今日の夕飯は彩雪と2人で食べることになった。

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