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冷たい風に頬を撫でられ、僕は目を覚ました。
今夜の空は相変わらず曇っていて、星はあまり見えない。
──夢の中で彼女といる時は、いつも晴れているのに。
たぶん今夜はこのまま晴れることはないだろうと諦めた僕は、大切な天体望遠鏡を片付けて、空き地を出た。
この空き地は、大切な彼女との思い出の場所。一人暮らしをしているアパートからは電車で一時間近くかかるのだが、ここ最近毎日来ている。
夜も11時近くになってようやく帰ったアパートの部屋に、明かりが付いていた。部屋に入れる合鍵を持っている人なんて一人しかい。
高校卒業と同時に付き合い始めた大切な恋人。
僕は早足で階段を上り、部屋の扉を開けた。ベッドに腰掛けてテレビを見ていたらしい彼女が、僕に気が付いて微笑んだ。
「あ、秀くんお帰りなさい!遅かったね」
「ただいま。来てたんだ」
「ちょっと、連絡したんだけど!相変わらずケータイ見ないよね。夕ご飯は食べた?」
「まだ」
「だろうと思って作ってあるよ」
彼女はテレビを消して立ち上がり、キッチンへと向かう。僕は靴を脱ぎ捨て、その彼女を後ろから抱きしめた。
「秀くん?」
驚いた様子の彼女は、顔だけこちらへ向ける。そんな彼女の唇に、僕はそっとキスを落とした。
「ちょっと、どうしちゃったの?」
「嫌?」
「嫌じゃないけど……」
「ねえ、変な話してもいい?」
僕はそう前置きをして、彼女の答えを待つこともなく話し始めた。
「ここ最近、毎日夢を見るんだ」
「夢?」
「うん、高校生の君に会う夢」
「高校生の私?」
「よく一緒に星を見た空き地を覚えてる?」
問われた彼女は、大きく目を見開いて、「もちろん」とコクコクうなずく。
「最近、仕事が終わってから毎日望遠鏡を持ってあそこに行ってる」
「え?結構遠いよね」
「うん。だからかな?空き地に着いて望遠鏡を準備した後、ものすごく眠たくなっていつも10分ぐらい寝ちゃうんだ」
そしてそこで眠ると、必ず夢に高校生時代の彼女──凛が現れる。
その夢はずいぶんとリアルなもので、覚めた後も会話の内容や、触れた彼女の体温が鮮明に思い出せる。
その上実際夢の中にいる時は、現実と区別がつかなくて、彼女と会うのは実際の出来事のように感じる。
初めは気づいていなかったが、夢を繰り返し見るうちに、彼女は凛なんだと気が付いた。だが気づいた後も、何故か夢の中の自分は彼女が「見知らぬ女子高生」であるとして接していて、それが正しいことのように感じた。
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