美
*
失恋したあの夜からも、私は毎日未練がましくあの空き地へ通っていた。
だけどもちろん、そこにシュウさんが現れることはない。
冬休みに入り学校がなくなると、昼間からずっと空き地にいた。去年だったら部活で忙しかったはずだけど、辞めてしまった今は何もやることがない。
「……てか今日クリスマスじゃん。世間は幸せムードなのに、私はいったい何してるんだろ」
口に出すと寂しさがいっそう増す。
いつまでもこの場所に執着していたって意味はないのに……。
あの日、彼が消えたのを見て、そもそもシュウという青年は、私が勝手に作り出した幻だったんじゃないかという気がしてきた。
「もう全部忘れちゃおうかな」
ポツリと呟いたその時だった。
「佐山さん?」
どこかで聞いたことがあるような声に苗字を呼ばれた。
その声の方を見ると──
「シュウ、さん……?」
長めの前髪に、筋の通った高めの鼻。
今まで暗いところでしか見たことがなかった好きな人が、そこにいた。
何で?もう来ないって言ってたのに……
だけど私は、すぐに自分の間違いに気がついた。今目の前にいる彼は、顔の感じや全体の雰囲気、声などがシュウさんそのものだけど、どう見ても年齢は私と同じぐらいだ。
それに、シュウさんは私の苗字なんて知らないはずだ。
私に見つめられる彼は、驚いたように目を見開いて言った。
「佐山さん、僕の名前知ってるの?」
「え?あ、ごめんなさい、人違い。えっと、そっちこそどうして私の名前を?」
「そりゃ知らないか。学校同じなんだ。2年2組の
「ほしな、しゅう……」
“しゅう”
同じ名前だ。
そう思った時、私の頭中で唐突に、シュウさんとの会話が蘇ってきた。
星を好きになったきっかけは、名前が星みたいだから。“シュウ”という名前のどこが星みたいなんだろうかと不思議にだったけど、名前というのが下の名前のことではなく、苗字のことだったら。
例えば、“ホシナ”みたいに。
「2組なら、化学の先生は沢野先生よね?」
「……?そうだけど」
シュウさんも、化学の担当は沢野先生だったと言っていた。モノマネが通じたのだから、間違いなく同じ先生のはずだ。
だけど、それはありえないのだ。
沢野先生は、3年前に初めて、私たちの通う東高に転任してきたのだと授業中に言っていた。10年近く前に東高を卒業したシュウさんが、沢野先生の授業を受けていたはずがない。
「保科くん、ちょっと左手貸して」
私は保科くんの返事を聞く前に彼の左手をとり、躊躇なく袖をめくった。
その腕には──
オリオン座のように並ぶほくろがあった。
……ねえ、やっぱりあなたは──
「さ、佐山さん?」
顔を赤くしながら少し慌てる保科くんに、私は涙を堪えて微笑みかける。
「ねえ、ここすごく星が綺麗に見えるの。今夜一緒に見ない?保科秀くん」
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