も
「高校の時の同級生。隣のクラスだったけど一方的に知ってて、ていうか憧れてて」
彼は懐かしむようにゆっくり答える。
そっけないいつもの口調と比べてずいぶん優しいような気がする。
「ある時この空き地で偶然会ったんだ。驚いたけど舞い上がったな。そこから交流するようになっていった」
「そう、なんですか。じゃあここは思い出の場所なんですね」
「うん」
もう、やめて。そんな幸せそうな顔しないでよ。
胸の辺りがひんやり冷えるような感覚に襲われて、ギュッと手の甲をつねる。
「付き合ってかなり経つけど、プロポーズしようと思うとなかなか踏ん切りがつかなくて。僕が彼女を幸せにできるのか不安だった。
だから、ちゃんとプロポーズできるまでこの思い出の場所に来て勇気をもらおうとしてたんだ」
「……ということは、プロポーズは上手くいったんですね。毎日ここに来て、不安はなくなったんですか?」
「なくなったわけじゃないけど、再認識できた。彼女のことがこんなに好きで、いつまでも隣にいたいんだって」
私と彼は、毎日ここで会って、同じ星空を眺めていた。
そう思っていたけど、違ったんだ。
彼は、ここで彼女との思い出を見ていたんだ。
なのに私は──ああ、馬鹿みたい。
そんな私の思いになど気づかず、シュウさんが私に視線を向けて微笑みかけてきた。
「キミのおかげだよ」
「私?」
「キミのおかげで、あの頃を鮮明に思い出せた」
彼はそう言って、──そっと私を抱きしめた。
……なんで?なんでそんなことをするの?
私はグッと息を飲んだ。
あなたには、一緒にいたい大切な人がいるんでしょ?
だけど私は、彼の腕を振り解けない。この腕の中は、私がいるべき場所じゃないのに。
「……他の女にこんなことしたら、奥さんになる人に怒られるんじゃないですか?」
「え?」
私が何とかそう言うと、シュウさんは腕の力を緩めて、心底不思議そうに首を傾げる。
そっか、そうだよね。
あなたにとって私は、恋愛対象ですらない子どもだよね。
「何でもないです。お幸せにっ!」
私は勢いよく頭を下げて、その場から逃げた。
困らせるだけだから、泣いてるところを見られたくなかった。
それでも最後だと思うと、どうしても好きな人の姿を目に焼き付けたくなって、空き地の方を振り返った。
が──
そこに、彼の姿はなかった。
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