次の日から、私は毎晩あの空き地を訪れた。

 シュウさんは言っていた通り毎日必ずいて、私が来る頃にはいつも天体望遠鏡を弄っていた。


 何度か話してわかったことだが、彼がそっけないように感じるのは、どうやは単に口下手なだのようで、他人と話すこと自体が嫌いというわけではないみたいだ。


「そういえば私、部活辞めたんですよね。さすがにあの二人がいる部活は居づらすぎるから」

「そっか、良いんじゃない?でもそれなら、こんな時間になるまでどこにいるの?」

「学校近くの図書館です。あそこ8時まで開いてて」


 その図書館で、星や星座についての本を読んで勉強している。

 そうしていると、少しでもシュウさんに近づけるような気がしたから。


 私の通う東高のOBである彼とは、学校の話で盛り上がることもあった。

 偶然にも、化学の沢野先生は彼も受け持ってもらっていたらしく、下手なモノマネは想像以上にウケた。


 時にはシュウさんが自分の話をしてくれることもあって、星を好きになったきっかけは名前が星みたいだったからだと教えてくれた。“シュウ”という名前のどこが星みたいなのかはよくわからなかったけど、彼のことを知れるのは嬉しかった。


 シュウさんと過ごすほんの限られた時間は、夢のように楽しかった。


 元彼氏に対しては抱くことのなかった恋心を、シュウさんに対して抱くようになるのにもそう時間は掛からなかった。




 ──それなのに、夢のような時間と私の淡い恋心は、ある夜に突然終わりを告げられた。



「僕、ここに来るの今日が最後だから」

「──……え?」


 いつものように空を見上げて、図書館で覚えたばかりの星座を探していた私は、聞き間違いかと思って間の抜けた声を上げる。


「明日からはもう来ない」

「な、なんで!?」

「目的が達成できたから」


 シュウさんは焦る私に向けて、照れ笑いのような表情を浮かべる。


「僕、結婚するんだ。昨日プロポーズした」

「けっ……こん……」


 どういうこと……?

 辺りは真っ暗なのに、目の前が真っ白になってしまったような気がした。


「あ、相手は──どんな人なんですか?」


 諸々の感情を無理やり飲み込んで、私は目をそらしながら聞いた。 



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