彼氏とはいっても、私は別に彼のことが好きだったわけではなかった。

 告白され、周囲にお膳立てされ、これで断ったら人の子じゃないぐらいの雰囲気にされて。何となく、成り行きで付き合った。


 休日に二人で出かけたり、隣のクラスでも毎日昼休みには中庭で一緒にお昼ご飯を食べたり、普通のカップルらしいことだってした。だけど、どうしても彼に対して“ 友達”とか“ チームメイト”以上の感情を抱けなかった。

 キスをされそうになったときは、嫌だと思ってしまった。

 それでも私は、その時は拒否してしまったけど、そのうちきっと本当に彼のことを好きになれると信じていた。


 ──そんな中での今日だ。



 気がつくと私は、部室での出来事を、全てシュウさんに話していた。

 シュウさんは相づち一つ打たず静かにしていて、話を聞いているのかどうかはよくわからない。私はそれをいい事に、溜まっていた感情を吐き出すかのようにしゃべった。


「彼、言ったんですよね。浮気するのは、私が悪いんだって。私が手を繋ぐ以上のことさせないからダメなんだって。

まあ、キスすらさせなかったのは事実だから言い返せなかったけど。……そう考えると、あいつのこと好きでもなかった私が怒るのも筋が違うのかな」


 あはは、と力なく笑うと、とてつもない虚しさに襲われる。

 すると、静かだったシュウさんが、おもむろに私の方を見た。


「意味わかんない」


 感情の読めない、ハッキリとした声で言われる。


「そ、そうですよね。さっき会ったばっかの女子高生にそんな話されても意味わからないですよね」

「いや、そうじゃなくて。明らかに男が悪いのに、キミが負い目を感じてる意味がわからない」

「え……」


 話、ちゃんと聞いてくれてたんだ。

 それが驚きで、同時に嬉しかった。


「手を繋ぐ以上のことができないのが不満なら、キミと別れてからそういうことをしてくれる相手と付き合えば良い。

そうしなかったのは、その男に自分の欲を満たしたい一方で、周りに自慢できる見栄えのする彼女を置いておきたいという自己中心的な思いがあったからだ。

……好きにならなくて正解だったんじゃない?」

「どうして……そこまでわかるんですか?」

「よく知っていたから」

「……?」


 彼はそれきり、また黙ってしまった。


 何を知っているのかは気になったけど、シュウさんが私は悪くないのだと言い切ってくれたのが嬉しかった。

 じんわりと涙があふれてきた。初対面の人に泣き顔を見られるのは恥ずかしい。暗くてよかった。



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