幸福な味について
夏コミを終えて友人と合流すると、上野まで足を延ばした。
適当な定食屋で夕飯を済ました。まだ帰るには早い時間だった。
近くで喫茶店を探して入った。クリスタルの照明がキラキラとオレンジがかった光を跳ね返す、昔ながらの喫茶店だった。
空調の利いた店内で、私はクリームソーダを注文した。初めはもうちょっと別のものを注文しようかとも思ったが、メニューを眺めていたら、急に飲みたくなったのだ。友人はコーヒーを注文していた。
クリームソーダが私の元へ運ばれてきた。
ケミカルな緑の液体に浮かぶ白いアイスの孤島。細長いスプーンで掬うと、細かい氷の粒がシャリシャリとした食感を生んだ。
「クリームソーダって、僕にとって”幸せな味”なんですよね」
そう切り出した。
明確な記憶はないが、なんとなく、何か幸せなタイミング。それは買い物についていった際の休憩や、滅多にない外食の時と結びついた感覚なのだろうな、と思う。
一つの象徴はクリームソーダだった。パン屋で買ってくる総菜パンも同様だ。多分、家で作ったり出てきたりしないものだからだろう。特別な味なのだ。
そんな話をすると、友人は、
「俺はスイカ丸々使ったフルーツポンチだなぁ」
と答えた。なるほど、確かにそれは幸せそうだな、と思った。
でも目の前にあるのは熱いコーヒーで、幸せとは遠いところにいるような寂しさを勝手に覚えた。
雑文 やを・ばーど @yawobird
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