あの夜と朝

 駅の地下通路で夜が明けるのを待つ。そんな選択をせざるを得ないとは思わなかった。

 父と適当な柱の近くで休んだ。すでに電話のバッテリーは空に近かった。

 股が擦れて痛い。風呂に入れないのが辛い。それでもまだ寒い季節だったのは幸いだったのかもしれない。

 父はいつの間にか眠っていた。このどこでも素早く眠れる能力は、たまに羨ましいと感じる。

 疲れていたが寝ることはできなかった。緊張があったのかもしれない。

 通路脇の排水溝から大きな鼠が出入りしていた。鼠を見たのは初めてかもしれない。いるんだな、という気持ちと、そりゃいるか、という納得の両方が混ざっていた。

 翌朝になってもJRは動いていなかった。仕方がないかな、と思った。

 幸いにも小田急が復旧していた。これで帰れる、と安堵した。

 このまま帰る前に、朝食だけ済ませようと思い、最寄り駅近くのデニーズに入った。あんな地震の後でも、普通にやっているものだな、と感心した。

 朝の八時を過ぎていた。こんな時間でも客はいるようだ。彼らも帰宅難民だったのだろうか。

 注文を済ませて、話すでもなくぼんやりしていると、奥の席にいた男女の会話が聞こえてきた。

「……今回の地震も、実は全て……」

 宗教の勧誘だった。男は感心しているのか演技なのか、頷いて話を聞いていた。

 しぶとさと厄介なしたたかさを見せつけられて、疲労が一層強くなった気がした。

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