休まらない
友人と同人イベントに行ったはいいが、想像よりもあっさりと見終えてしまった。
その後の予定は何も立てていなかった。
秋葉原にいたとはいえ、特にショップを眺める気分でもなかった。
ふと青い案内標識を見上げた。巣鴨が目に入った。
「巣鴨行くか」
歩き出した。
エロ同人の話をした。エロジャンルの話をした。中身は覚えていない。
ビルの際を歩いていても、夏の日差しは容赦がなかった。靴底から熱が浸透してきた。
どこかで喫茶店に入ろうか、という話になるが、ちっとも見つけられないまま歩き続けた。
いつしか東大の校舎前に辿り着いた。自分らには無縁だわ、と力なく笑った。
道向かいの建物の二階に、気だるげな老婆を見つけた。
彼女よりもよほど気だるく歩き続けた。先ほど見かけた標識からしばらく歩いたので、あと三キロを切ったくらいだろうか。日陰が増えたことだけがほんのわずかな救いだった。
日曜だからか、学生らしき姿をほとんど見かけなかった。
いつまでも東大の柵が終わらない。途切れたと思ったらまた別の敷地が始まった。
ようやく真っ直ぐ歩くだけの道に変化が出た。左折する。初めて来たのに見覚えがあるような気にさせる商店街だった。
緩やかなカーブを歩き続けた。いつまで経っても巣鴨は見えない。
標識が見えた。まだ三キロあった。さっきの距離感が勘違いだと気づかされた。喫茶店もまだ見つけられない。
夕方が近づいても、風は温度を孕んでいた。涼しさは遠いままだった。
住宅街を進む。知らない街を歩くのは好きだ。とはいえさすがに疲れてきた。
目のような柵に見つめられながら、歩き続けた。
もういっそてんやにでも入るかと言いながら歩いていると、東洋大のキャンパスが見えてきた。存外大学同士は近く、巣鴨は遠いのだなと意味のわからない悪態をついた。
いい加減、どこか喫茶店に入ろうとなった。
白山通りに至る。ここならいいかな、と通り沿いの店を選んで入った。
入店の鐘がむなしく響いた。店内は異様に静かで古風だった。
カウンター席で店主の妻らしき女性が編み物をしていた。こちらをじろりと一瞥した。
席に着くなり、荒っぽく水を置かれた。
常連らしき老人が窓際に一人。カウンター内に店主。異様な静けさだった。
声を発するのが憚られるほど、無口な空間だった。逃げたかった。
さっさと注文を済ませ、また乱暴に飲み物が運ばれた。人生最大級の小声で「さっさと出よう」と打ち合わせると、急ぎ飲み干し会計を済ませて店を出た。
「すげぇなあの店」と口をそろえるように言った。ネットで評判を調べると、やはり店主が無口だという感想を見つけた。一方で、なぜかツイッターで名言botを発見したが、恐ろしくてフォローができなかった。
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