窓から見えるイトーヨーカドーのネオンへの夜想

 祖母の手術があった。母が付きそうというので、私は一人で適当に夕飯を済ませて帰ることにした。

 仕事用のズボンで用いているベルトが繰り返し噛んだようにボロボロになっていた。そこら中に皺が浮き出し、合皮の表面は剥げ、すっかりちぎれかけていた。

 こういう機会がなければ能動的に行かないイトーヨーカドーへ入る。程々の体裁とケチりに丁度いい、身の丈に合ったベルトを求めてだ。

 男性用衣料品コーナーに上がる。夜七時を過ぎ、平日ということもあってか客はほとんどいない。所在なさげな店員の姿を見る時、上手く言葉にできない涙が浮かびそうになる。

 ベルトを探す。すぐに見つけた。だが丁度いいサイズのものがなかった。と思ったら、すぐ近くにまた異なるベルトのコーナーがあった。

 適当なものを一つ選びレジへ向かう。人がいないにも関わらず、レジのタイミングに限って他人とかち合った。

 会計を済ませ、それからイトーヨーカドーを出て、比較的近い場所にあるサイゼリヤに入る。

 ぎゃははと大声で笑うまだ若い連中を見て、瞬間面倒だなと思うが、すぐに忘れる。

 適当に、ほどほど豪勢な気持ちを味わえる程度の品数を選ぶと、ドリンクバーコーナーへ一人向かう。

 戻ってくる最中、窓の向こう、イトーヨーカドーのネオンロゴが目に飛び込む。なんとはなしにサイバーパンクな気持ちに襲われた。

 この店は自宅から離れていて使う機会がない。しかし生活圏内にあり、かつ誰のものとも知れない生活感が、しっかりと蔓延していた。奇妙な落ち着きと寂しさが同居する。

 特別さとは何だろう、と思った。

 店という要因は大きいと思う。距離もまた大事だ。

 ただ片方だけでは不完全なんだと思う。仮に自宅から遠く離れ鹿児島の繁華街にでもあるサイゼリヤに入店したとしても、窓の外の景色が近ごろありがちな大型駅前チェーンだらけだったら、それはきっと日常のコラージュに過ぎない感覚に陥り、きっとさしたる非日常を感じられないのではないかなと、そう思う。

 一方で、普段一歩も足を踏み入れないような、雰囲気や価格が上等な店だったなら、こちらの方が特別感は強そうだ。窓の外に見覚えがある景色がさして映らなければ、多分、これは非日常を維持できる気がする。

 店員を呼ぶベルの音がどこかの座席で響いて、また猥雑な店内に意識が戻った。

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