病の味

 吐いた。バナナが原因とは思えないが、三角コーナーに捨てられた黒ずんだ皮、甘い腐臭を嗅いでいると、なんとはなしにお前の仕業かという気持ちがメラメラ湧き上がってきた。それでもお前のことは好きだよ。

 胃の疼痛を諦めて寝て起きて、するとそれでも扇風機の中が弱になった程度の変化の痛みがまだ居座っていて、謝罪して仕事を休んだ。

 徒歩三分以内の近所に内科の病院があるのを知ったのは今日が初めてだった。縁がない店や施設は前を通っても、ゲームの背景にある書割のポリゴンと大差なくて、そこが突然進入可能エリアになったような不思議があった。

 外面よりも広くて、見かけ通りに清潔で綺麗な待合室でぼんやりと待つ間、病とか人生とかを少々ぐるぐる悩んだ。悩むだけで解決とはいつも無縁だった。

 矢柴俊博に似た先生の質問に、あれだけ覚えようとして結局忘れた痛みの位置の説明や、じくじくとかずきずきとか表現に対し「いや実際じくじくってわからん感覚だな」とか思いつつ、はあ、曖昧で申し訳ないですと謝りながら、最終的に朝食を抜いたことを褒められたことで安堵した。

 意外にも人生で口にしたことがなかったウィダーインゼリーを朝食兼昼食に飲み、しばらく休む。

 合間合間でポカリスエットを飲んだ。普段は飲まない。飲むならアクエリアスだ。

 ポカリスエットは病気の時にばかり飲んでいる。かつて母が買ってきてくれて、それからの習慣だ。もう滅多に風邪をひき寝込み飲む機会もなくなったが。

 故にポカリスエットは病の味だ。好きな味だが結びつきの印象が悪かった。それで平時はアクエリアスに流れるし、(フォローするかのように)逆に言えば、ポカリスエットは治癒の味だ。

 夜ににゅう麺を食べた。美味だった。普通に外食でもフランクに食いたいなと思った。

 翌朝は幸い休日で、気遣いで梅干し入りのおかゆを食べた。

 おかゆは最大の病の味だった。胃に優しいが、味覚と精神との相性があまりよくなかった。

 梅干しとおかゆのどろりが独特の酸っぱさになって舌を襲い、寒気ではなく、ぶるんと震えた。

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