第3話 なぜ、僕に関わる?
「ごちそうさまでした!河野くんのお弁当、とっても美味しかったです!」
「そうか……」
人に食べられるのはこれが初めてだったから、正直どうなのかは分からなかったけれど、意外と大丈夫なようだ。
「それじゃあ、教室に戻りましょう!」
「……なんで君と一緒に?」
「へっ?そんなの、同じ教室だからじゃないですか?」
「はぁ……」
本当にこの人は何も考えていないのか?僕と彼女が一緒に歩いてるところを考えてみろよ?面倒くさいことになるのは目に見えているだろう?
「僕はもう少し、ここでボーっとしてから行くから、君は行って」
「河野くんがまだいるというのなら私も……」
「だからさ……君は何も分かってないのか?君はもう少し、自分という存在が、周りにどれほどの影響を与えるのか考えたほうが良い」
「私は周りからの評価など気にしません。私は今自分がしたいと思ったことをするだけです」
「はぁ……」
これで今日、何回目だろう?朝から幸せが逃げまくってるよ……。そもそも、僕の人生に幸せなんてものは存在しないのかもしれないけど……。
「ねぇ、この際だから聞かせてもらうけどさ、なんで君はそこまでしつこく僕に付きまとうの?」
彼女の絡みは異常だ。僕からしたらしつこいなんてもんじゃない。他の男子どもは嬉しいのかもしれないが、僕はうざったくて仕方がない……。
「河野くん、君に恩返しがしたいからです」
恩返し?いったい僕がいつ、君を助けたって言うんだい?嘘をつくなら、もう少しまともなものにしてくれよ。いい加減、気分が悪い。
「そんなこと、僕はした覚えがない。だから、もう構わないでくれ」
それだけ言うと、僕は屋上の扉に手をかけて、中に入っていこうとした。その寸前に、背中に彼女の声が届いた。
「まぁ、分からなくても無理ないですか……」
そして、そろそろ授業が始まるため、教室へと急いでいたわけだが、
「河野くん、次の授業、なんでしたっけ?」
「…………なんでいるんだよ?」
「へっ?そんなの、同じ教室だからじゃないですか?」
さっきも聞いたような言葉が返ってきた。はぁ……。これはもう、諦めるしかないか。問い詰められたら逃げよう……。
案の定、僕たちが教室に入ると、全員の視線が僕たちに向けられた。彼女には、なぜ?という疑問の色を強く含んだ視線が、僕には……言うまでもないかもしれないが、嫉妬と怒りに満ちた視線が。
その中で、このクラスの常に中心にいるイケメン?なのかは分からないが、ある一人が僕のもとに歩み寄ってきた。
「なぁ、河野、だったか?君、白雪さんとはどういう関係なんだ?」
こうなるから嫌だったんだよ……。面倒くさいな……。
僕はすでに説明することを放棄した。無視すればこいつも、僕じゃなくて白雪さんの方に行くだろう。無視無視……。
「君は僕と会話をしようって気がないのかい?仕方ない、白雪さんに聞くとしよう」
良かった。面倒ごとがどっかに行ってくれた。ひとまずこれで難は逃れたか……。
と、安心したのもつかの間。彼女がだいぶひどいことを言った。
「う~ん、河野くんと私の関係ですか……。お弁当を渡し合う仲、ですかね……?」
何を言ってるんだ、あの人は?適当を言うのもいい加減にしてほしい。なんだか、頭が痛くなってきた。
そんな風に周りに聞き耳を立てながら座って授業の準備をしていると、彼女が僕の席まで来た。
「あの、河野くん。今日の帰り、一緒に帰りませんか?」
もう、いい加減にしてほしい。僕なんかに構わないでほしい。
「ねぇ、白雪さん。こんなこと言うのは、僕もちょっと嫌だけどさ、君が僕に構うことで、僕に迷惑がかかるかもしれないとか、考えたことないわけ?」
自分で言っててあきれてしまう。いったい僕は、どんな自分中心主義者なんだろう。
でも、もう構わないでもらいたい。教室の隅にいる、地味な陰キャのままで放っておいてもらいたい。
「河野さんは、私が話しかけるとご迷惑ですか?」
「あぁ、迷惑だ。今日だけで、僕がいったい何回ため息をついたと思っている?君といると、僕はどんどん辛くなる一方なんだ。だから、もう僕に構わないでほしい」
言ってしまった。なぜか言い終わった時、そんな言葉が俺の脳裏をよぎった。
おかしい。今の状況だったら、言ってやったくらいの気持ちでもいいはずなのに。なんで僕は、そんなに罪悪感を持ったような感覚を抱いているんだろう?
その答えは、案外あっけなく分かった。目の前で、彼女が泣いていたからだ。
「ひっく……ぐすっ……」
何で泣いているんだ?僕に関わったって、君には一つも良いことなんかないだろう?なぜ君は、そこまで僕にしつこく構うんだ?
周りからの視線が痛い。さっきのイケメンも、僕を殺さんとばかりに視線を突き付けてきている。もう、耐えられない。吐き気がする。
僕は慌てて、クラスを飛び出した。
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