初依頼

「ここ、つまりアズパイアでは買い取れないんです!!」

「おいおいどういう事だよアリサちゃん。登録前でも狩った魔物の買取は可能だろう。」

「そうだそうだ、どういう事なんだ!?」


エドガーさんだけでなく周りにいた冒険者さん達も僕たちの会話が聞こえていたらしくも抗議の声を上げ、ちょっとした騒ぎになってしまった。アリサさんは周りにいる冒険者さんの声に負けないような大声で説明を始めた。


「このグリーンドラゴンの死体があまりにも綺麗過ぎるからなんです!」


通常ワイバーンは複数のパーティが徒党を組んで討伐する相手で、生命力が強いため戦闘自体が長期戦となり討伐したとしても、その体はボロボロになっているのが常識だそうだ。良く見るとこのドラゴンの体は首の切り口以外は全然傷がついていなかった。群がっていた冒険者さん達がそのことに気が付き、口々にワイバーンの体が綺麗な事を誉めそやしていた。なので、このワイバーンは全身がお宝になるわけだ。ワイバーンはドラゴンの亜種とはいえ無駄な部位など無いといわれている。この素材を買い取るにはアズパイアの予算が足りないため、王都で行われるオークションに掛ける必要があるそうだ。


「すみません、それは困ります。オークションに出すってことは、お金が入るまで時間がかかるって事ですよね、今売れないと宿代どころか夕飯も食べられないんですよ」

「ああもう!今夜の分くらい貸してやるからこのワイバーンはオークションに出しちまえ!」

「あ、ありがとうございます!あの、良かったらこれ首を切断した時に落ちたワイバーンの鱗なんですがを受け取ってください。」

「……マジで!?」

「エドガーさんにお礼をしたかったのですがご迷惑なら仕舞いますが」

「えっ、いや貰う貰う!!本当に貰って良いのか!?」

「まじかよエドガーの野郎!」

「よーっし!今日の晩飯はおじさんが奢ってやろう! 好きな物を頼め!!」

「え? 良いんですか!?」

「かまわんかまわん!」

「よっしゃー! お前等エドガーが奢ってくれるぞー!」

「バカ野郎! お前等に奢るなんて言ってねぇよ!」


 こうして、なし崩しに僕らは近くの酒場へと向かい、朝まで大騒ぎするのであった。

翌日、エドガーさんのおかげで宿に泊まれた僕は借りたお金を返しこれからの生活費を稼ぐ為に意気揚々と冒険者ギルドの中へ入っていった。ギルドの建物に入った僕は、さっそく冒険者さん達が集まっている依頼ボードに向かい、まずはFランクの常設依頼から受けることにした。一つ上のEランクの依頼も受ける事が出来るが、最初は無理せず自分に合ったランクの仕事を探し薬草採取の仕事を選んだ。だから身の丈に合わない依頼を受けた冒険者が依頼を達成できなくて、ペナルティを受けてしまう事が多々あるのだそうだ。だから最初に受ける依頼はペナルティのない常設依頼が良いと共に薬草だったら田舎でポーションを作る時に良く採取していたので知っていた。ちなみに常設依頼は窓口で依頼の申請をしなくて良いらしい。


森へやってきた僕は早速薬草探しを始めるが故郷では普通にやっていた事なのに、冒険者の仕事だと思うとなぜか不思議な気分になる。日陰になった場所を探すと早速見つけた薬草をナイフで根元から切り取る。薬草は葉っぱが材料になるので根っこは残しておくとまた何度でも生えるからだ。次々と薬草を見つけて採取していく。僕は薬草を採るのが楽しくなって夢中で集めていく。


 けっこうな量の薬草を集めた僕はそろそろ町に戻ろうと考えていた。魔法の袋があるから重さは感じないけど、あんまり遅くなると昨日の様に受付が混むからと思ったその時だった。突然森から獣や虫の鳴き声、それに木々のさざめきまでも音が消えた。こういう時は強大な魔物が現れたり、恐ろしい災害が起きるのだ。


 そんなことを思いながら森の奥からバリバリと木々が倒れる音が聞こえその方向へ向かい駆け出した。木々を吹き飛ばしながら突進し続ける巨大な魔物の姿が見えた。巨大な猪型の魔物のファントムボアだった。この魔物はもの凄い突進力で短距離なら馬より早く走り、とても硬くて柔軟な毛皮で覆われており一般的に群れで行動する。


そのボアは興奮しているのか、森の中を全力で駆け抜けており、彼等が走るたびに足元の木々が小枝のように吹き飛ばされてゆく。ファントムボアが進行する方向にはアズパイアがあるため群れを殲滅する為、森を破壊しないように気を付けながら魔法の準備を始める。


 僕の魔法が発動し、周囲の木々がファントムボアの体に絡みつく。これは僕が開発した魔法で木の形をツタの様に変えて相手を捕縛する拘束魔法の上位魔法でファントムボアが慌てて振り払おうとするけど僕の魔力で強化されているので無駄だった。瞬く間にファントムボアは体をがんじがらめに拘束されて動けなくなった。魔法の効果で根っこが伸びてしっかりと地面に食い込み、周囲の木々と絡み合ってまるで網のように木が組み合わさる。


 僕は跳躍してファントムボアの真上に飛び乗ると、その額にブロードソードを突き刺してライトニングを使いファントムボアの体内に雷撃の魔法を放つ。この方法で全てのファントムボアを倒した。


さて、せっかくだからこのファントムボアの死体も回収しようかな。これも多少は金になるだろうし。僕は魔法の袋にファントムボアの死体を収納していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る