第4話 おいでませ、ラボ様!
気絶したいが、ここで気絶すると話が進まないので、気を取り直した。
限界を越えれば、人間なんとかなるものである。いや、なんともならないか。
気合いは大事だと言い聞かせる。
病は気から!的な感じでお願いしたい。
「向こうに、四角い建物が現れたからオトナリさんがいると思ったんだよね。大抵は建物とセットでやってくるから」
「なんだって?!」
そういう大切なことは早く言ってくれ!
タカヨシは猫獣人が指し示した方向に顔を向ける。
そこには確かに四角い建物があった。
周囲の草原の中、見慣れたコンクリートが忽然と鎮座していた。
「ラボだ!」
不透明な自動ドアを目にして、歓喜した。
職場の研究室の一つ区画を切り取ったかのような建物がそこにあったからだ。
タカヨシの愛してやまない無菌室が、あの建物のなかにはあるはずなのだから。
「あ、やっぱりアンタの家なんだね」
もう猫獣人に歯磨きを願うことも、全身の毛を剃ることを強要する必要もなくなった。
タカヨシは一目散に建物の自動ドアに近づいて、横にある光彩認証で扉のロックを外して中に飛び込んだ。
見慣れた長い廊下が続き、廊下の隅にポツンと置かれた食事スペースを確認する。
一人ずつが座って食べられるカウンターを廊下の壁に向かって備え付け、電子レンジと給湯ポット、お菓子やお茶、カップラーメンなどが置かれているのも同じだ。
タカヨシは狂喜した。
手作りの料理は食べられないので、基本的にはインスタントや冷凍食品で生きていきた。電子レンジの横には小さな冷凍庫と飲み物が冷やされている保管庫が設置されているのだ。もちろん社員たちは無料で飲食できる。
まさか、その設備をそのまま持ってきてくれたなんて。
誰の采配かはわからないが、タカヨシを生かす気はあるらしい。
食べ物を確認したら、入り口から二つ目にあるクリーンルームのシャワー室に向かう。
服を全て脱いで壁についたコンソールパネルで操作すれば自動的に上下左右からお湯が出て、ついでにシャンプーと泡石鹸まで噴出する。スポンジが優しく体を洗い、頭はマジックハンドと呼ばれる手がプロの美容師さんの手つきで洗ってくれる優れものだ。
もちろん、AIが管理しているので、随所のカメラで体格を把握し適度なお湯や石鹸の量、また好みの強さを判断しているので、タカヨシに合わせたベストコンディションで設定されている。
本当にラボ様々だ。
目を閉じて流れに任せていると、途端に悲鳴が上がった。
「にゃにゃにゃあっ、これはなんなのよっ?!」
いや、なんで貴女まで一緒にシャワー室に入っているんですかね?
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