第3話 求む、理論!

とりあえず、歯を磨いて出直して来てもらっていいですか。


いや、全身の毛を剃って出直して来てもらっていいですか。


せめて、風呂に入って防護服着込んでくれてもいいですけれど。


興味津々に此方を眺めて来る猫獣人に、なんと声をかけようかタカヨシは頭を悩ませた。

よくわからないが、言葉が通じるならば、しっかりと主張したいところだ。相互理解からお互いの距離感が掴めるのだから。


つまり、近づくなということなのだが。

相手は全くタカヨシの葛藤に気づかず、のんびりと続けた。


「アンタ、オトナリさんだね?」

「オトナリさん?」

「えー、そっちの言葉でテンイシャ?」

「テンイシャ…ああ、転移者か。つまり、俺のような者がこの世界はよく現れるのか」

「そうそう。オトナリさんは、同じ位置に世界が重なってるんだよ。だから、時々ズレて、こうして現れるんだよね」


え、どういうこと?

なんで、そんな簡単な説明で納得できると思うのかさっぱり理解できない。もっと理論で語って欲しいものである。

だが、彼女の話は構わず続く。


「オトナリさんは、頻繁にやってくる社会現象の一つだよ。この世界ではよくあるね。月が上向くのと同じくらいの回数かな。会いたいなら、結構すぐに会えるけれど」


月が上向く?

それは、どれくらいの頻度ということだろうか。


そもそも潔癖症のタカヨシには、見知らぬ人物に会うということがストレスなのだが、猫獣人は同族意識はほんと強いよね、とウンウン頷いている。


そりゃあ見知らぬ異世界に突然やってくれば、コミュニケーションくらいは取りたくなるだろうが、生憎と自分はそこまで社交的ではない。

拒否しようと考えたが、彼女の言葉はまだまだ続く。


せめてマスクをつけてくれないだろうか。

もちろん高性能の防塵PM2.5まで防げるもので。いや、むしろガスマスクを自分がつけたいくらいだ。


空気中の汚染状況を測定して周囲の菌を特定しなければ。


「心配しなくても、保護団体に届ければきちんとこの世界でも面倒見てもらえるよ、案内しようか」

「保護団体?」


思わず首を傾げてみるが、彼女はのんびりと尻尾を揺らして淀みなく答えた。


「仁義なき国境なきオトナリビトを保護する団体、通称、隣人保護団体」


何だろうか、その怪しい団体は。

仁義は大事ではありませんかね?



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