第4話

 自分の記憶を取り戻すために、俺、月影煌牙つきかげこうがは記憶探しの旅をしている。

 それも、俺の記憶そのものだとかいうコウと。

「次はどこに行くんだ?」

「着いてからのお楽しみだよ」

 いつものように微笑んで、コウはサクサク歩いていく。

 俺たちは今、浜辺を歩いている。

 津波に飲み込まれたり、一人の少女を助けたり、結構大変な目にはあったが、無事に記憶の一部を取り戻すことが出来たのだった。



 取り戻した記憶は幼稚園・小学生くらいのものだった。

 どんぐり拾いだとか、水族館だとか、運動会だとか、どれもこれも他愛ないものだが、とても温かく、懐かしい記憶だ。

 その記憶のどれにも、幼なじみの少女がいる。

 俺にとってとても大切な、なくしたくない大事な人。

 その少子はさっき助けた少女にとても似ていた。

 次に行く場所でもやはりいるのだろうか。

 あの少女が俺の記憶の鍵になるのだろうか。



 そんなことを考えながらコウの横を歩いていると、コウが突然止まった。

「いきなり止まってどうしたんだ?」

「次の場所への扉だよ」

 ニコッと笑いながらコウが指さす先には岩でできたトンネルしかなく、扉なんてものはどこにもない。

「トビラなんてどこにもないけど」

 そう言った瞬間、トンネルの向こう側から風が吹いてきて、どこからともなく扉が現れた。

「……は?」

「さあ、行こう!」

 コウが俺の手を取り、意気揚々と歩き出し、扉に手をかける。

 俺が呆気にとられている間に扉をくぐってしまった。

 扉の先にはひたすらに眩しい光でいっぱいだ。

(次はどんなばしょなんだ?)

 少しの不安と高揚感を胸に、俺はコウと共に光の先へ足を踏み出した。





「さあ、次はここで記憶を探そう!」

「ここは、水族館?」

 そう、ここは水族館だ。

 ただし、さっきの海と同じで人は誰もいない。

「なんか、水族館ってもっと活気があるところじゃないのか?ここは寂しすぎるぞ」

 俺の意見にコウはため息をつきながら片手をあげた。

 その瞬間。

「お母さん!はやくー!」

「みてみて!このおさかなおっきい!」

「走ると危ないぞー」

「まもなくイルカショーが始まります。ご覧になるお客様はこちらへー」

 まわりには人が溢れ、土産物屋にも、フードコートにも、楽しそうな声がしてきた。

「コウって本当に何でもできるよな」

「当然!なんたって僕はこの世界の案内人、中心とも呼べるんだから」

 コウは、どや顔で笑っている。

 すると突然館内アナウンスが流れ始める。

「『ドキドキ!宝探しゲーム』の受付がまもなく終了致します。参加希望のお客様は、本館二階にあります、宝探し本部へとお越しくださいませ」

「「やってみよう」」

 俺はコウと顔を見合わせ、同時に声をあげた。

 どちらかともなく噴き出して笑った。

「同じこと考えてたんだな」

「ほんとだね。とりあえず面白そうだし宝探し本部に行ってみようか」



 本部の前には人だかりができていた。

 参加する人は結構いるみたいだ。

「みてみて!なんか海賊っぽい衣装を着た人がいるよ!」

 コウが指さす方を見てみると、それらしき人が何人かいるのが見えた。

 船長のような帽子を被っていたり、バンダナを巻いていたり、腰に剣を下げていたり、海賊のコスプレはどれも本格的だ。

「あの、宝探しに二人、参加したいんですけど、まだ大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。こちらにお名前と服のサイズをご記入ください」

 ん?名前はわかるが、なぜ服のサイズまで。

「あの、服のサイズを書くのは何でですか?」

 コウは海賊のコスプレをしたスタッフにストレートで聞いた。

 すると返ってきた答えは、なんとも複雑な気持ちになるものだった。

「当イベントでは、参加していただく皆様に海賊になりきって宝探しをしていただくものなんです。ですのでまずは形からということで、参加者には海賊の恰好をしていただきます」

 この歳になってコスプレは厳しい。

 いや、自分が何歳かなんて知らないが、それでも少し抵抗がある。

「なあコウ、やっぱやめないか?」

「なるほど!面白そうですね!ぜひ参加させていただきます!」

 そう言って、俺の分まで書いてしまった。


 参加手続きが済んだ俺たちがスタッフに連れらてたどり着いた先には、たくさんの海賊衣装があった。

「この中から選ぶのか?」

「いっぱいあって迷っちゃうねー」

「お決まりになりましたら、お呼びください」

 そう言い残して、スタッフはそそくさと部屋から出ていってしまった。

 コウは楽しそうに服を見始めたが、俺はただ眺めるしかできない。

「早く選ばないと宝探し始まっちゃうよ?」なんて、コウの言葉も横に流れていく。

(もう少し数が少なかったら選びやすいのに)

 眺めていても仕方がないので、俺はため息をついて服選びに取りかかった。




 ──一時間後──

「うわあ!似合ってるね!」

「お前もな」

 ようやく服が決まり、袖を通してお互いを見やる。

 俺が着ているのは、黒のボンタンにブーツ、白のシャツと暗めの赤が基調の袖がないロングコート、左の二の腕辺りに服を締めるベルト、右腕に肘下辺りまでの黒い長手袋。

 肩から下げるタイプの革製のホルスターには拳銃が二つ。

 頭にはイカリモチーフのブローチが付いた紺のタオルを巻き、イカリの付いたネックレスと、銀色イヤリングを付けている。

 コウは、頭に羽飾りや網紐などが付いた紺のタオルを巻き、白のシャツの上にエメラルドグリーンのコートを羽織り、一緒にベルトで締めている。

 紺のボンタンをはいて、ブーツ。

 腰にはサーベルが下げられて、手には望遠鏡を持っている。

「コウはあれだな。航海士っぽい」

 コウは照れるようにはにかんだ。

「君は何だろう、船長っって感じじゃないし下っ端ってわけでもなさそう。でもすっごくかっこいいよ!」

 コウは少し前のめる勢いで俺に詰め寄り、褒めてくる。

 こういう時はどういう反応をすればいいのか、全くわからないから困る。

「とりあえず、着替えも済んだしスタッフのところに行くか」

 無理矢理話を終わらせて、俺とコウは部屋を出た。



 部屋の外にはスタッフが四人いた。

「お二人ともとてもお似合いです。では、こちらにどうぞ」

 そう言われて通された部屋はどこかの楽屋のような作りをしている。

 これから何をするのか、コウと顔を合わせて首をかしげていると、二人そろって鏡の前の椅子に座らされる。

(俺の顔ってこんなだったのか)

 自分の顔をこんな形で知ることになるとは思ってもみなかった。

「あの、今から何をするんですか?」

 困惑気味にスタッフに問いかけると、思ってもみない言葉が。

「最後の仕上げにメイクをします。じっとしていてくださいね」

 メイクまでする必要があるのか、という疑問が頭に浮かぶが、反論をする前にスタッフは作業を始めてしまい、口をはさめなくなってしまう。


 スタッフの人達にされるがままになって約十五分。

 俺とコウのメイクが終了した。

「これが、俺?」

 鏡の前に座っているのは、いつもの俺だが雰囲気が大分違っていた。

 コウも同じことを思っているのか固まっている。

メイクと一緒に髪までセットされて、驚いているのだろう。

「ヘアメイクまでするなんて本格的なんですね」

「当水族館で行う参加型の大きなイベントではいつもこうなんです。あまりできない経験を思い出と一緒にお客様へ届けることが出来れば、という社長の考えです。さあ、そろそろ宝探しが始まります。スタート地点へ移動して下さい」

 そう言うと、俺とコウを部屋から連れ出して会場に向かう。


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