第1話 Réunion - 再会 -

約束当日。

準備をして早めに出発。

約束時間の20分前にI駅改札口に着いた。

スマホをいじりながら待つこと10分、粟司君らしき人が改札を出てきた。

身長約180cm、痩せ型・・・だったけど、少しふっくらしてるし、電話で言ってた通りお腹も少し・・。

でも、昔の面影がある。

周りをきょろきょろして、誰かを探してるみたい。

思い切ってその人に声をかけた。

「あの・・粟司君?」


「え・・、そうですけど。。」

キョトンとした表情で、しかも戸惑ってる。


やっぱり、粟司君だった。

「おひさ⭐︎」

ニコッとしながら、軽く右手を上げて、挨拶してみる。

粟司君を見る私は身長160cmなので、見上げる恰好になる。


「えと・・どちら様でしたっけ。」

今度は不思議そうな顔をしてる。

完全に私だと分かってない。

凄く変わったって言ったのに。

それに、待ち合わせの時間に声かけてくる人なんて、中辻君か私ぐらいなのに、気付いてくれない。


「何言うてんのー。私やん。」

気づいて貰おうと、再度笑顔で自分の顔を指差して、もう一度トライしてみる。


「いやー、私と言われても・・。」

私の顔を見つめながらも、まだ分からないらしい。

粟司君の顔は、益々困惑してきてる。

と言うか、完全に私をキャッチとかの不審者だと思ってる。


『何で、気づいてくれへんのー。』

次第に私も困惑してきた。

仕方がないので、最後の手段。

名前を告げた。

「もう・・、分かれへん?田川やん。」

こう言うのって、何時もながら恥かしい。


「へ?」

名前を言われても、気付かない粟司君。

頭の中が混乱してるみたいな、素っ頓狂な声。


「もう・・、今日、飲みに行く約束してる田川やん。」

焦ったさを感じつつ、さらに詳しく自己紹介。


「・・・。」

事情がよく飲み込めていない様子。

表情が無い。


暫しの沈黙。


「・・・・・・・・・・・・。」

まだ沈黙の粟司君。

私の顔を見ながら惚けてる。

事情が飲み込めてない。

完全に思考能力がメモリオーバーで停止してる感じ。


「まだ分かれへんの?」

小首を傾げて聞いてみる。

もう、私の方が不思議そうな顔をしてるに違いない。


「・・・、な、何でやーーーーっ!」

やっと仮想メモリの処理が終わったのか、ビックリした顔で急に大声で叫ぶ、粟司君。

しかも、返事が会話になってない。

私の容姿は、完全に予想外だったみたい。


「わっ!」

粟司君の大声で、私もビックリして、叫んでしまった。

ドキドキドキドキ。

ほんとにビックリしたぁ。


「どないしたんや!」

またまた、大声で聞いてくる粟司君。

まだ、納得してないのか、びっくり顔のまま。


「だから、変わったって言うたやん。。」

私のビックリ、ドキドキはすぐに収まったけど、今度は恥ずかしさがこみ上げてきて、声が小さくなる。

粟司君を見ていた顔は視線を落として、下を向いてしまった。


「変わり過ぎやろっ!」

またまたまた、大声。


「声大きいし・・・。」

粟司君の大声で、周りの人がチラチラと私たちを見て行く。

恥ずかしいな、もう。

でも、そう言うところ、昔と全然変わってない。

何だか、嬉しくてホッとしてしまった。


「あ・・・、悪い悪い、変わりすぎてて興奮してしもた。」

やっと我に帰ったのか、私の言葉で周りの視線に気がついたのか分からないけど、声のトーンが元に戻ってくれた。

でも、表情は私の変わりようが分からず、不安げと言うか疑問だらけな感じ。


「しゃーけど、ほんま、どないしたんや?」

心配してくれてるのが分かる。

昔と変わってない優しさが嬉しいな。


「うん・・まあ・・、後で話すから・・・。」

この場で話せることでも無いし、長くなるし、串揚げ屋さんで話そうと思ってた。

こう言う姿で来たからには、話さないといけない事は覚悟してる。

今の・・、いや、本当の私を知って貰いたかった。

あの当時、話せなかった事、隠してきた事を。

例え拒絶されたとしても・・。


「うん、分かった。」

私が何か覚悟して来てる事を悟ったのか、静かに優しく答えてくれた。

こういう所も変わってない。


二人で待つ事数分。


「中辻君、まだかなー。」

約束の時間。

愚痴じゃ無いけど、口をついて出た。

中辻君にも早く会いたい。


「その内、来るやろ。あ、ほら、こっち来てる奴とちゃうかな、あんまり変わってないなー。いや、ちょっと肥えとるな、ははは・・。」

改札口に向かって来る男性を見ながら、軽く笑う、粟司君。

『自分の事を棚に上げて、酷いこと言うなー。』

と思いながらも、向かって来る男性を見ると、少し納得。


「あ、そうみたいやね。」

私も自分の事、棚に上げてる。

でも、中辻君も昔の面影がある。


「久しぶりー。」

中辻君も私達に気がついていたもよう。

右手を上げて、和やかに近づいて来た。


「おう、久しぶりやなー。」

粟司君も右手を上げて応える。


「あれ、田川はまだ来てへんのか?ちゅーか、隣の女の人、誰?ああ、お前の愛人かっ。」

開口一番、満面の笑みで指摘する中辻君。

ええっ!

『粟司君だけに気付いてたん?』

しかも何と言う勘違いっ!

いや、ネタなんだろうけど。


「ちゃうわっ!」

速攻で全否定する、粟司君。

そこはそれ、ネタで言ってくれてるんだから、粟司君もネタで『そうや、彼女やー。』って返すべきなんとちゃうの?

何故かちょっと残念。

でも、苦笑いしてる私。


「中辻君、おひさ。」

笑顔で軽く右手を上げて応える。


「へ?誰でしたっけ?」

不思議そうな顔で尋ねてくる。

粟司君と同じ反応。

私の隣に立ってる粟司君は横を向いて右手を口に当てて、笑いが込み上げてくるのを堪えてる。


「田川やん。」

粟司君の時と同じように、名前を言ってみる。


「田川・・、知り合いにそんな名前の女性、いてたっけ?」

益々、不思議そうな顔。


「もう・・、今日、三人で飲みに行く約束してる田川やん。」

苦笑いしながら、私も粟司君に言ったのと同じ言葉で応酬。


「・・・、な、何でやーーーーっ!」

粟司君と同じように、ビックリした顔で急に大きな声で叫ぶ、中辻君。

中辻君はメモリオーバーにならずに即答だった。


「声、大きいしー、それに粟司君と同じ反応してるし。」

今度は驚かない。

苦笑いしながら、冷静に応えた。


「なー、変わり過ぎやろー。」

笑いを堪えてた粟司君が、やっと笑えると思ったのか、笑顔で中辻君に同意を求める。


ダスティピンクのコート、ピンクのニット、ホワイトでフリル付きの大きな襟のブラウス、裾にホワイトのレースがついたピンクのミニスカ、ブラックのパンスト、7cmヒールの膝丈編み上げなブラックのミドルブーツ、ピンクの猫耳ニット帽。

何と言うか・・若作りかな。

「へ・・変かな。」

ほんの少しびくびくしながら、二人に尋ねてみる。


「全然、変やない、女の子にしか見えへんし、可愛いんやけど。」

粟司君が笑顔で答えてくれた。


「そやな、似合い過ぎやん。」

中辻君も笑顔で答えてくれる。


「ありがとう・・。」

嬉しさが込み上げてくる。

少し涙声。

この姿出来て良かったな。


「でや、何でそうなったんや。」

中辻君が、粟司君と同じ事を聞いてきた。

当然の疑問。


「うん、後で話すから・・。」

そう、それを話す為に、今日はこの姿で来たんだから。

ちゃんと話さないと。


「そやな、先に店に行こか。」

粟司君が再度、私の決心みたいな物を感じ取ってくれたのか、優しく言ってくれた。

ビックリはされたけど、非難も暴言もからかいもしなかった二人。

優しいな・・感謝しないと。

だからこそ、当時は話せなかった事を・・本当の自分の事を話したいと、再度決意した。

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Andalusiteに包まれて 森沢真美 @Mami-Morisawa

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