TS百合+依存という最強タッグ

 この小説を推す理由はただひとつ、この作品でしか摂取できない栄養があるからです。
『性自認が男のTS百合は百合ではない!』と百合原理主義者を気取る私も白旗をあげて降参した、出会ってから一年以上、同じ魅力と尊さを味わえる作品をいまだに見つけられないTS百合の傑作。
 というわけで、初レビューをここに捧げます。

 さて、この【魔法少女タイラントシルフ】、導入からして容赦がありません。
 ある日マスコット的な存在に選ばれ女の子に! というテンプレ的な導入でありながら、魔法少女らしい甘さはかけらもなく、むしろ昭和的な改造人間を彷彿とさせるやり口は、まんま敵組織のそれです。シ○ッカーかな?

 そんな導入からもわかるように、ややダーク寄りの仄暗い作風です。
 魔法少女の在り方も、時おり顔をのぞかせる世界の有り様も、いびつな不穏さに満ちています。

 ひいては、この作品のいち推しポイントである主人公の精神性。
 会社員として一応の生活を送る程度には社会に溶け込めていた三十路男の、しかし奥底に潜んでいた心の欠落と幼い内面が、TSによって無理やり剥き出しにされてしまいます。

 それに向き合い寄り添ってくれた、自分よりずっと歳下の少女に、〝大人〟を気取りながらも依存していく痛々しいまでのあどけなさ(と、ちょろ可愛さ)。
 そのすべてを受け止めていくうち、胸に芽生えたものがただの親愛や友情ではないと気づいてしまったヒロイン。

 ああ、これはまごうことなき百合。これが百合じゃないならなにを百合と呼べばいいのかっ!

 本当ならありえなかったはずの関係が、切実さが、TSによって成り立ってしまう――性自認や性指向が明確に変わったというより、お互いに向けた矢印が性別を超越した結果として〝百合〟へ転じる――という逆転は、むしろTS百合ならでは。
 心身ともに性別が一致した(少なくとも明確な違和感を抱いていない)女子同士の、本来の百合とはまた違った魅力があります。

 そのため、『いやどうしてもTS百合だけはダメなんだ』という方には残念ながらお勧めできないものの。だいじょうぶ、むしろ大好物という方であれば、読まない理由がないと自信をもって推しましょう。

 え、主人公が元大人の男のくせに幼すぎるとか嫌?
 ご安心ください、それには相応の理由があるのだとのちに明かされます。


――じゃあ読んでみるか、となってくれた方へ。

 この作品は〝なろう〟での連載が先行しており(すでに第四章まで完結。主人公のヒロインっぷりとヒロインの主人公っぷりが加速して情緒が乱れること受け合い)、さらに挿絵の追加、本編とはべつのIFストーリー(エッッッなもの含む)が投稿されているなど、ぶっちゃけ向こうが本家という感じです。

 私としては、読むという点でならカクヨムさんが一番だと思っていますので、できればこちらでも連載再開してほしいなあという願いをこめつつレビューします。