産みの親
ピーター・モリソン
1
人から人が生まれなくなって、久しい。
高度に発達した文明と引き替えに、生殖機能が失われたのだと唱える者もいたし、神が与えた試練だと説く者もいた。
医療機器をつかわなければ、精子と卵子は受精することはなく、そのヒト胚を子宮に戻しても、そこから育つことはなかった。
子供が生まれなければ、人類は滅びてしまう。
危機的状況を目の前にして、科学者達は動物の子宮を借りて、出産させる方法を開発した。子宮は動物だが、ヒト胚を着床させるので、ちゃんとした人の子供となる。
馬、牛、羊、豚。
この四種が代理子宮としてつかわれることになった。ヒト胚との相性問題があったため、あえて一種にしぼることはしなかった。出来れば自然分娩をさせたが、個体により帝王切開も用いられた。どの子宮をつかおうが、生まれてくる子供の知力、運動能力、容姿に差はなかった。
この事実を公式に国際機関が発表したにもかかわらず、子宮による格差や差別が生まれた。
「うちの家系はずっとサラブレットさ」
富裕層は馬の子宮を好み、貧困層は安価な羊か豚を選ばざるをえなかった。
「俺は家畜じゃない、人間だ」
人種差別ならぬ、子宮差別が紛争へ発展する前に、国際機関は出生子宮の秘匿化を行った。富裕層も貧困層も子宮を選べなくなったのだ。精子と卵子をあずけ、医療施設によって相性のよい子宮が選ばれ、出産後に子供を受け取るというシステムが構築された。
これで子宮差別はなくなったと思われたが、どんなに厳重な守秘を強いたとしても、自分がどの子宮から生まれたのか、結局、本人にはわかってしまうのだった。
自分を産み落とした動物の肉を食べると、嘔吐などのアレルギー反応を起こした。動物の子宮でそういった反応因子が埋め込まれる、そんな仮説はあったが、原因はいまだに不明だった。
晩餐会、結婚式、ホームパーティなど、不特定多数の人々が集まるパーティーでは、魚やチキンが振る舞われるのが、マナーとなっていた。
産みの親を気にせず、誰もが心穏やかに歓談を楽しむために。
〈了〉
産みの親 ピーター・モリソン @peter_morrison
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