第2話 火薬とトンカチ
第二話 火薬とトンカチ
「さて、どうやって新入部員をゲットする?」
次の日の朝、俺達は校庭に集まって、作戦会議を行なっていた。結局昨日は、時間が遅かったこともあり、まだ部活を決めていない新入生はほとんどが帰宅してしまっていたので、今日からが勝負というわけだ。ちなみに、部室での会議は俺が断固拒否した。あの部室には、よく見ると水素と酸素以外にも、火薬、花火、なにやらよくわからない配線、化学物質その他もろもろ危険が潜んでいたので、なんとしても今日新入部員をゲットしなくてはならない。新入部員には悪いが、俺だって自分の命を優先させていただかなくては。
「ていうか、去年はどうやって勧誘してたんですか?俺の時は偶然でしたけど…」
そう、俺は昨日、たまたま財布を落としてしまったのだ。あれは不覚だった、あれさえなければと、昨日の夜どれほど後悔したことか。いや、財布を落とすだけならまだいい。問題なのは、それを拾ってくれたのがこの先輩2人だったということだ。「おい、財布落としたぞ。」
「あ、すいません。ありがとうございます。」「ところで、お前は部活を決めたのか、うちは陸上部だ。よかったら来ないか?」「ホントですか!行きます!」
流れるような会話、無駄のない言葉、完全な詐欺だ。おそらくは先輩達は相当人を騙すのに長けているのだろう。
「そうだな、他の部活と同じで、放課後に勧誘するのと、あと今日からは昼休みに一年の各クラスを回って呼びかけるだけだ。もっとも、ほかに何かしてたかもしれんが、俺達は去年一年だったからな、よく分からん。まあ普通陸上部なんて、勧誘しなくても勝手に入ってくるからな。」
「じゃあなんで先輩達の代は2人しかいないんですかね。」
「なんでだろうな。」
「さっぱり分からん。」
「部室があんなんだからだと思いますよ。」
「とにかくだ、普通の方法では確実にあと2人入ってくる保証がない。」
音先輩は俺の話を無視して言った。
「そこで、俺達が北島にしたように、何か特別な作戦がいる。」
「ええ、そうですね…ん?」
「だか、マサト、あの作戦では、北島のように入部しないと言い出すかもしれんぞ。」
「その通りだ。だから別の作戦がいる。」
「ちょ、ちょっと待ってください。」
「なんだ、何か案があるのか?」
馬場先輩は、不思議そうな顔で聞いてきた。いや、なんでそんな顔が出来るんだ。
「今、なんて言いました?」
「なんて、とは?」
「俺に特別な作戦を使った、とは?」
「ああ、それか。財布、拾ってやっただろう?」
「あれはな、実は俺がわざとお前の財布をポケットから落としたんだ。ちょうど尻ポケットから財布が見えてたからな。それをマサトが拾った。偶然を装ってな。」
「…は?!」
「まあ、というわけでだ、この作戦は通じないだろうから次の…」
「ちょっと待てやこらぁぁぁぁぁぁ!」
昼休み、俺達は新入生の勧誘を行うべく、一年生フロアに集合した。教室を覗くと、まだどこかよそよそしくしながらも、新しくできた友達と楽しそうに話しながら弁当を食べている。あ、そういえば俺も早くクラスに戻らなくては、昼休みぼっち勢になってしまう。こういうのは最初が肝心で、ある程度グループができてからでは遅い。だかまあ、新入部員確保のためなら仕方ないか。
「よし、じゃあ段取りを確認するぞ。」
音先輩が珍しく頼もしい声で言った。
「僕は何をすればいいんですかね?」
「北島はまあ立ってるだけでいい。挨拶だけしっかり声を出してくれ。説明は俺達でやるからな。」
「分かりました。ところで、その手に持ってるものはなんですか?」
馬場先輩は何やら大きめの袋を持っていた。まさか、危険なものではないだろうが、…いやこの人達なら危険な物もあり得そうで怖い。
「ん?これか。これはスパイクとか、バトンとか、ユニフォームとか、まあ部活で使う道具だな。こういうのがあった方が、イメージしやすくて初心者でも入りやすいだろ。」
「なるほど。」
確かに、ユニフォームとかがカッコよかったら興味も湧くかもしれない。意外とちゃんと考えてるんだな。クレイジーな人達かと思っていたが、案外きちんとした常識も持っているのかもしれない。
「じゃあ行くぞ。準備はいいな。」
「はい。必ず新入部員をゲットしましょう!」
音先輩、馬場先輩、そして俺の順番で、A組の教室へと入っていく。
「失礼しまーす!」
俺は少し緊張しながらも、先輩達に続いて黒板の前に立った。どうやら他の部活が先に宣伝に来ていたようで、黒板には練習場所や部のインスタのアカウント名など様々な情報が書かれていた。
「今日は!僕たちは陸上部です!陸上部は週5日、放課後にグラウンドで活動しています。」
音先輩が話し始める。人前には慣れているのか、随分と流暢な喋りだ。
「さて、つまんない話しをしても仕方ないので、今日は僕たちが使う道具を紹介しようと思います。マコト、あれ出してくれ。」
馬場先輩は、まず最初にスパイクを取り出した。
「これが陸上部が使うスパイク。サッカーなんかと違って、ピンが物凄く尖っているのが分かる?これで踏まれたら、冗談抜きで指貫通するかもよ。」
音先輩が説明しながらスパイクをみんなに見えるように見せた。怖―いとか、すげーとか、なかなか反応がいい。よし、その調子だ。
「次に、これはバトン。まあ体育で使ったりもするだろうから分かるだろうけど、やっぱりバトンが上手く渡った時は最高に気持ちいいよね。」
ほーと、みんなの目線がバトンへと集まる。
「次に、これはユニフォーム。これを着て大会に出るわけだけど、まあなかなかに生地が薄い。冬こんな格好をしてたら、結構死ねるね。」
へぇー、と何人かが興味深そうにユニフォームを見た。俺も見るのは初めてだが、結構カッコいい。これは、1人くらい入ってくれる人もいるのではないだろうか。
「最後になるけど、これが火薬だ。」
そう、この火薬でバシッと決めて新入部員を…は?
「火薬?!」
「そう火薬。」
クラスも騒然となっている。そりゃそうだ。なんで火薬が出てくるんだ。
「なんで火薬なんか持ってきてるんですか?!」
「ん?そりゃ使うからだろう。」
「いやどうやって使うんですか?!」
「そりゃあ、爆発させて使うんだよな。」
「逆にそれ以外にどうやって使うんだ。」
「あんたら正気かよ!」
「北島、何か勘違いしていないか?」
「何がですかね!」
「これは、雷管に詰める火薬だよ。」
「え?…ああ、言われてみれば。」
スタートする時の、鉄砲のような音を鳴らすヤツ。それが雷管で、確かにその中に火薬を詰める。あれ?じゃあいいのか?いや、でもそしたら普通雷管本体を持ってこないか?一年生も困惑したように、俺達を見つめていた。
「じゃあ、こいつの使い方を説明する。こいつはな、衝撃を与えたら爆発するんだ。といっても音が鳴る程度だけどね。残念ながら。ほら、こんな風に」
どこから取り出したのか、音先輩はトンカチを持っていた。俺の頭の中で、警報が鳴り響く。音先輩は火薬を教卓の上に置き、演出のためか、必要以上にトンカチを大きく振りかぶった。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
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