爆発系青春ラブコメディ

@abcdai

第1話 夢のような新しい世界

第一話  夢のような新しい世界


4月、桜はもうほとんど散って葉桜となっており、それにもかかわらず桜の木の下で記念写真を撮ってはキャッキャ騒いでいる女子生徒が多数いた。高校生になった今年こそは、と北島英治は思う。今年こそは、必ず彼女をゲットしてみせる。


「さあ、ここが俺達羽咲高校陸上競技部の部室だ。ちょっと汚いがそこはまぁ我慢してくれ。」


右隣にいたゴツい先輩、確か、音マサト先輩だっけ?音先輩が言った。すると示し合わせたかのように左隣にいたヒョロっとした先輩、馬場マコト先輩が部室のドアを開けた。息の合った見事な連携である。いいなぁ。俺も気の合う友人と、切磋琢磨し合いながら厳しい練習に耐え、そして全国に…そんな青春を過ごしてやるんだ。英治は、中学の頃から陸上をしていた。種目は100メートル。ただしそんなに速かったわけでもないので、県大会に出れるかどうかと言ったところだ。だからまぁ全国なんて夢のまた夢だし、そもそも練習がそんなに好きではないのだが、まぁ夢を見るくらいはいいだろうは。俺としては、楽しければそれでいい。全国っていうのは、ちょっと言ってみたかっただけ。まぁでもとにかく、ここが、今日から俺が青春を過ごす場所なんだ!


「ドガーン!ボッカーン!グアアアン!」


耳を塞ぎたくなるような騒音。部室の右隅に置いてあるテレビから、爆発映像が次から次へと飛び出していた。


「…なんですか?これ。」


「ん?」


「これって?」


「いやこれですよ!なんでわかんないんですか!何故に爆発音が流れてるんですか!!」


「何言ってんだお前。」


音先輩が不思議そうな顔をして言った。


「部室に癒し音楽を流すのは、別に不思議じゃないだろう?」


「い、癒し音楽…?」


何を言っているんだこの人は。もしかしてボケているのか!?


「ほら、早く入れよ。」


「えっ?あ、ああはい。」


馬場先輩に流れるように案内される。テレビから流れる爆発音以外は、特に珍しい物のない、普通の部室であっ…


「あれ、なんですか?」


爆発音がうるさいので、結構大きな声を出さないといけない。


「あれ?」


「アレですよ!ア!レ!」


俺は必死にそれがある方を指差した。「水素と酸素、混ぜたので危険」、恐ろしい文字が書かれている蓋のされたビーカーのようなものがある。


「ああ、あれか。水素と酸素を混ぜたから爆発しやすいぞ。気を付けろ。」


「いやなんで混ぜたんだよ!意味分かんねーよ!」


「何をいうか、ちゃんと親切に混ぜたから危険って書いてあるだろうが。」


「何の為に混ぜるんだよ!こんなところに置いておいて、危ないでしょう!」


「なぁ、英治。」


馬場先輩が真剣な顔をして話しかけてきた。


「な、何ですか?」


「そこに水素と酸素があったら、混ぜないという選択肢なんて浮かぶはずないだろう?」


「帰らせていただきます。」


俺は鞄を持ち、ドアの方を向いた。おかしい。狂っている。ここにいては死んでしまう。本能が逃げろと訴えかけていた。


「ちょっと待った。」


ドアの前に、音先輩が立ち塞がっていた。


「どいてください。他の部活を見学します。」


「まぁまて、そんなに慌てるな。時間はたっぷりあるだろう?」


気がつくと、後ろには馬場先輩が立っていた。完全に挟まれた形となり、逃げ道を失ってしまった。マズイ。何とかしなくては、取り返しのつかない事になる。俺の彼女持ち青春学園生活が、崩れてしまう。


「俺達陸上部は、今この2人しか部員がいないんだ。」


「それがどうしたんですか?」


「つまり、今年新入生が入らなければ、廃部となる。」


「それで?」


「しかしだ、何故だかこの部活は全く人気がない。陸上部がこんなにも人数が少ないなんて、他の学校では珍しいだろう。」


「ホントになんでだろうな。」


「お二人がいるからじゃないですかね。」


「とにかくだ、普通の方法で勧誘してもまず新入生は入ってこない。そこでだ、」


そう言って音先輩は鞄から何やら紙を取り出した。


「強行手段に出ることにした。」


目の前に突き出された紙には、入部届け、1―3(10) 北島英治、そして北島のハンコが押されていた。


「な、これは一体…」


「先生にはもう出した。つまりお前はもう、陸上部だ。」


「ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!」



それからしばらく後、なかなか解放してくれなかった先輩をなんとか振り切って、俺は職員室にいた。


「これ、僕の意思じゃないんです!取り消して下さい!」


「そうは言ってもなぁ。」


前にいるのは、陸上部の顧問、里崎先生だ。化学の先生で、ナマケモノのような顔をしているから、あだ名はナマケモノ。そのままだ。


「この学校では、入部したら最低1ヶ月はその部にいなくてはいけない。そういう決まりは知っているだろう?」


「でも僕の意思ではないんですって!」


「でもなぁ、お前、あの部に入ってみないか?」


「絶対に嫌です。」


「アイツら、すごい熱心なんだよ。このままあの部を廃部させるのは、俺としてもちょっとなぁ。思う所があるんだよ。」


「じゃあ知ってますか?!あの部、水素と酸素混ぜたやつあるんですよ!」


「…それが何か?」


「あ、あんたもそっち側なのか。」


「とにかく、アイツら、爆発に関してはホントに熱心なんだよ。お願いだから、1ヶ月だけでも入ってくれないかな?」


「…あそこ、陸上部ですよね?」


信じられない。よくもまあ学校もこんな先生を顧問として認めたもんだ。俺は改めてナマケモノをまじまじと見つめた。なにやらパソコンで作業をしていたらしいが、なかなか捗っていないようだ。きっと動きまでナマケモノなのだろう。


「じゃあ、こうしよう!部活動として活動するためには、最低5人いる。つまり、アイツらを含めてあと2人、お前を抜くとあと3人だな。3人勧誘できたら、お前の退部を認めてやる。」


「…退部って、僕としてはまだ入ったつもりもないんですけどね。」


しかし、この先生もどこか狂っている。今のところ、この部を抜けるにはそれが一番の手だろう。


「分かりました。3人集めればいいんですね?」


「おう!任せたぞ。じゃああとはよろしくな、音、馬場。」


「え?」


さっと後ろを振り向くと、何故かそこには化け物2人がいる。


「分かりました!じゃああと2人勧誘してきまーす!」


「3人ですからね!?」


「じゃあ荷物は部室に置いてこい!今から勧誘に行くぞ。」


「あの部室は絶対に嫌です!」


「お前なぁ、いくらあの部室が汚いからって、好き嫌いはよくないぞ?」


「そうだ、お前はもう少し我慢ってものを知った方がいいな。」


「なんで僕が悪いみたいに言われてるんですか?!あ、ちょ、引っ張んないで下さい!服が伸びるから…あの部室には連れて行かないでくれ!!嫌だーーーーー!」


こうして、俺の爆発系青春ストーリーは、幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る