第3話 告白

今夜は素敵なお洋服に素敵なレストラン。

 シャンデリアや手元のキャンドルからの光を照り返して輝く前菜のジュレは、わたくしでも驚いてしまうほど。

 澄んでいるけれどしっかりと層で光を屈折するポタージュ・クレールは、、わたくしのおりました地層のよう。

 淡いピンクに、泡で鈴を転がすような音を奏でるシャンパーニュ。

 よくお手入れされた、鏡よりも深く周囲を写すカトラリー。

 

 わたくしには敵わなくていらっしゃっても、それでも素敵さに溢れたこのホール。

 ああ、それでもやっぱり貴方様が一番素敵。

 

 添えられたポワソンに添えられたソースはまるでトパーズのよう。

 お皿の磁器に負けない貴方様のしなやかな指先。

 今夜ばかりはアクセントにお選びになった真珠やオニキスへの浮気も赦しましょう。

 けれど、これは本当に特別なこと。

 せっかくなのですから、その笑顔の緊張も飲込まれた方がよろしくてよ。


 トリュフで風味付けされた少量のパテ・ド・フォアグラが乗せられたフィレのアントレーに添えられたベリーソースは、まるでアメジストクラスターのよう。

 ここまで続いたシャンパーニュも、これからはわたくしと同じ色の赤ワインと交代。

 一皿一皿変わる毎に、貴方様の緊張もいつもの微笑みにとけ込んでゆく。

 日頃のわたくしといらっしゃるときの雰囲気を思い出して頂き光栄ですわ。



 アントルメは軽めのレモンと柚子のソルベ。

 そのまま流れるように出てきたのは、鴨肉の蒸焼肉ロティとクレソンのサラダ。

 どちらも翡翠やターコイズ、アズライト達宝玉を混ぜ合わせた宝石袋のようで、見ているだけでも楽しくなる。


 水晶のように輝くグラスも下げられて、やって来たデセールは、こんがりとタイガーアイのよう。

 貴方様との日々のほうが甘いですけれど。



 そして、貴方様は意を決した様に、わたくしのケースを開ける。

 わたくし、ついにご一緒の空間に、ととても楽しみにしておりましたのに、その先には見知らぬお方。

 驚いていらっしゃるのか、戸惑っていらっしゃるのか、少し困ったようなお顔。

 あらイヤだ。

 わたくし、こんな方の為には少しだって輝いてなんて差し上げませんわ。

 貴方様のご好意を、こんな顔で迎えるお方なんて。


 こんなお方ではダメですわ。

 慥かにお美しいですけれど、貴方様と共に歩むには粘りも硬度も足りはしない。


 気高い貴方様には、強く輝くわたくしこそが相応しい。


 さあ、わたくしを御覧になって。

 そう、わたくしを。

 貴方様に選ばれる、貴方様の一番。


 それが、わたくしのたった一つの望み——

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