第71話 修行開始!

 将来の進路まで冥界基準で決定した翌日。

 健星の手によってばっちりスケジュールが組まれてしまった鈴音は、朝から夕方まではしっかり高校に行った後、晴明の待つ陰陽寮を訪れていた。九尾狐への変化を自分で制御し、必要に応じてその力を使えるように修行するためだ。

 動きやすい格好で来てほしいと言われていたので、冥界では初めて普段着でやって来た。しかしTシャツにジーンズ姿というのは、何もかも平安時代を基準として成り立っている冥界では浮く。道すがら妖怪たちが興味津々に鈴音のファッションを見ていたが、新しい王であることを知っているので、無礼にならない程度に見ていた。

「ううん。冥界のファッションて変わらないのかな。でも、健星って冥界でもスーツよね」

「あれは現世によく行くからですよ。他は皆、着物に慣れておりますからねえ」

 横を歩くユキは、ファッションまでは変化しないかとと申し訳なさそうだ。ちなみにそのユキは今日も狩衣姿である。

「お待ちしておりました。妖力の使い方を学んでいきましょう」

 陰陽寮に入ると、早速晴明がやりますかと笑顔だ。その晴明は普段の狩衣姿ではなく神主のような格好だった。

「よろしくお願いします。でも、どうやってやるんですか?」

 そもそも修行と言われても具体的なイメージが全く出来ない。鈴音はこんな格好で出来るのかという点も謎だった。修行というと、白装束のイメージがあった。もしくは山伏みたいな格好。

「大丈夫です。力自体はすでに鈴音の身体に身についていますからね。それをどう出し入れするかという点だけです。その参考になるのはユキでしょう」

「へ?」

 いきなり指名されて、俺ですかとユキはびっくりしている。

「そう。ユキは狐にも人間にもスムーズに変化できる。その中間の姿も取れるでしょ」

「ああ、そういえば」

 戦っている時のユキの顔が半分だけ狐になっていたのを思い出し、なるほどと鈴音は納得。そして、その顔が封じられた記憶を呼び起こし、最初の変化を起こしたのだった。

「ええ。つまり発動のきっかけを覚えてしまえば簡単です。とはいえ、化け狐であるユキは生まれつき、自然とやっているでしょうから、その補助を俺がやるって感じですね。というわけでユキ、まずは狐に」

「は、はい」

 鈴音の修行の役に立てると知り、俄然やる気のユキはひょいっと狐姿になる。部屋に現われた時と同じ真っ白の狐だ。

「ああ、可愛い」

 あの姿がいいなあと鈴音はユキの頭を撫でつつ思ったが

「九尾狐は美しさですからねえ」

 と晴明にそれは無理と断言される。

「そうなんだ」

「さて、鈴音の番ですよ。狐の姿を思い浮かべて変化する。これをまず習得します。ユキの姿をよく見て、狐をイメージして」

「は、はい」

 言われて、鈴音はじっとユキを見つめる。ユキは照れくさいのか、ちょっと身体を捩ったが、我慢して鈴音の前でじっとしている。

「ううん」

 自分が狐かあ。微かに残る記憶を辿り、自分の顔が変化していく様子を思い浮かべる。

「そのまま、自分の身体が狐に変わっていくのをイメージして」

「――」

 いつの間にか集中していた鈴音は目を閉じていた。すると、身体中がざわざわとざわめくのを感じる。

「そのまま、変化すると念じて」

 晴明の声をガイドに、鈴音は狐に変わると念じた。すると、ぽんっという音がした。

「へっ」

「あっ、耳が変化しましたね」

 晴明はそう言うと、目を開けた鈴音の前に鏡を持ってきた。その鏡には、確かに獣耳になった自分が映っている。

「な、なんかアニメのキャラみたい」

「ああ、いいですね。そういういいイメージを大切にして、変化を習得していきましょう」

 最初にしては上出来ですよと、晴明は褒めてくれる。ううむ、この人、教えるのが上手だ。

「頑張ります」

「では、続けましょう」

「はい」

 鈴音は変化した自分の耳に触れて、本当に自分の身体に妖かしの血が流れているんだと、初めて実感していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る