第72話 成長は心構えを変える
イメージして変化する。
これを続けること一週間。
「ほう、凄いな」
「これが九尾狐かあ」
健星の前で九尾狐へと変化してみせた鈴音だが、意識がある状態でこのフルバージョンになったのは初めて。自分でもこんな姿なんだと感心してしまう。
尻尾が九本もあるから、どうしても普通の狐より姿が大きい。そしてどんっと優美に構えている感じがある。
たしかに御前狐のユキとは全く違う姿だ。
「鈴音様、お美しゅうございます」
そのユキは少年姿で、鈴音の九尾狐姿にうっとりしていた。
「これでもう自分で力を使えるはずだから、後は妖術に関してだね。でも、これは実践込みの方がやりやすいだろうから、即位後で大丈夫だろう」
晴明はうんうんと満足そう。
「妖術も使えるの?」
しかし、鈴音はこんな姿になれるだけでもびっくりなのに、他にも力があるのかと驚きを隠せない。
「そりゃあそうさ。鈴音は半妖だからね。人間の駆使する術と組み合わせることで、相当な数の術が使えるよ」
「へえ」
鈴音は自分のことなのに凄すぎるでしょと呆れてしまう。
「おい、変化できるのは解ったから、そろそろ人間に戻ってくれ。次は鬼討伐について考えなきゃならん」
健星ははいはいと、その場をまとめるように手を叩く。やはり仕切るのはこの男の仕事らしい。
「よっ」
鈴音は元の自分の姿を思い浮かべて変化。ぽんっと自分の姿に戻った。
「自分で変化する場合は服が破れないのよね」
そしてもう一つ発見。今までは勝手に変化し、服はビリビリに破れたとユキから聞いていたが、自分でやるともともと着ていた服の姿に戻れる。今日は学校が終わってすぐに着たから制服のままだった。
「服も自らの身体の一部として変化するからだろうな」
「そうだね。己の姿として組み込まれているものだから」
健星の言葉に晴明が頷き、自分で変化することの便利さがまた一つ増えた気分だった。しかし、それは同時に自分は普通の人とは違うと、はっきり自覚することでもある。
「私って半分が狐なのねえ」
「でも、今はそう考えても不快感はないだろ?」
晴明の確認に、鈴音はもちろんと頷いた。紅葉のことも知っているし、何よりずっと傍にユキがいる。二人と同じ部分があるということに不快感があるわけがない。だから、不快感と聞かれても鈴音は首を傾げるしかなかった。
「それが精神の成長なんだけどな。まあ、無自覚にやってのけたんだったら問題ない」
不思議そうな顔の鈴音にやれやれと健星は溜め息を吐き、嫌悪が引き金で変化していたのになと、口の中だけで呟いた。出来るようになれば問題ないわけで、今更そんな指摘は無用だ。というわけで、はい次と床に資料を広げ始める。
「すでに討伐隊の編成は済んでいる。と同時に、向こうの鬼たちも全面対決が近いと準備に入っているな」
「ということは、冥界初めての本格的な戦が起こるってわけか」
健星の言葉に、なるほどと晴明は難しい顔になる。それに鈴音も
「戦になるの?」
と驚いていた。てっきり鵺と対峙した時のような感じになると思っていたのだ。
「当たり前だろう。これは当初から変わっていない。いや、むしろお前の即位が確定したことにより、鬼たちは躍起になってお前を殺しに掛かってくるぞ」
「っつ」
途端に、自分の部屋や健星の部屋で襲われた時の感覚が蘇ってきた。そうだ、鬼は自分を食い殺そうとしていた。あちこちで妖怪と会ううちに、その恐怖がすっかり薄らいでいたのだと気づく。
「まっ、こっちは官軍として総力戦で挑める。左近や俺の自警団だけより強力だし、負けることはない」
恐怖を思い出す鈴音に、どんっと構えていれば大丈夫だと、健星は明日の天気でも話す調子で断言してくれるのだった。
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