第70話 やることは山盛りある
どれだけ覚悟が定まっても、王になるのはやっぱり簡単じゃなかった。
「まず、即位式までに鬼の討伐をお願いします。すでに兵部省が鬼の居場所を特定し囲っておりますが、即位式を邪魔しようとするのは目に見えておりますからな。新たな王の力を示すためにも、ぜひに討伐隊の指揮をお願いします」
そういうのは左大臣の天海。
「それと同時に、最初に小野殿とやろうとしていた全国行脚、これは必ず行ってください。ああ、大丈夫です。今度は冥界の護衛付き、先触れも出しますから、鈴音様が襲われることはありません」
というのは右大臣の北条政子。
「と、それらの前に鈴音には九尾狐への変化と解除を自力で出来るように妖力の安定の修行を受けてもらわないとね。大丈夫大丈夫、あれだけの力があれば一週間も掛からないって」
これは陰陽頭の晴明の言葉。
「同時に管理台帳を作りますので、全国行脚には私も同行します」
こちらは中務卿の菅原道真。
「やはり政権交代を機にしっかりとした政治機構を整えたいところです。鈴音様、ご協力を」
こう言ったのは民部省の長官、
その後も次々と鈴音の前にお偉いさんが現われて、こうしたいああしたい、即位式までにはこれをしてくれと申し立てて去って行った。
「つ、疲れた」
おかげでそれが終わった三時間後には、早くもぐったりしていた。清涼殿の、今後はずっとここで政務を執っていく場所で、もう無理と寝転んでしまう。
「まあ、いきなりあれこれ動き出したからな。疲れもするだろう。それに、俺には言いにくかったことも鈴音には言えるということが解ったし」
しかし、ずっと横にいた健星は未だびしっとしていて、しかも申し立ての内容を書類に纏めている。慣れているとはいえ、これには凄いと鈴音は感心してしまった。おかげで急いで身を起こす。
「やっぱり健星がいないとこの冥界って回らないんだ」
「そうだよ。知ってる」
「ですよね」
そうじゃなきゃ、あんな術を使ってまで冥界にずっと生まれ変わることも、王になろうと真っ先に立ち上がることもない。
ううむ、健星の凄さがひしひしと実感出来る。第一印象が最悪だったから、ここまでどうも捻くれた嫌な奴というイメージが付き纏っていたが、それは努力を覆い隠すためのものだったらしい。
「そう言えば、現世でのお仕事はどうするの?」
これから一層忙しくなったら、刑事なんてやっていられるのか。ふと疑問になって訊ねると
「お前が見つからなかったら王になっていたんだ。初めから選挙後に辞めるつもりだったよ。そもそも、現世での妖怪の動きを押えることが出来れば、刑事としての仕事は必要ないからな」
「ああ、そうか」
そもそも刑事になったのも、その手前で東大を出たのも、総ては冥界のためだった。ああもう、どこまでも敵いそうにない。っていうか、なんでそこまで出来るんだろう。これが不思議だ。
鈴音の覚悟なんて、健星の前じゃ米粒ほどしかないのか。
「私は」
「高校は卒業しろ。ついでに大学も行け」
「えっ?」
王様になるのに? びっくりして健星をまじまじと見ていると
「何のために俺が宰相になると思っている。何事もしっかりした基礎がなければどうしようもない。しっかり勉学に励め。ああ、大学は法学部か総合政策に行けよ。あそこならば政治を学べる」
やっぱり冥界が基準なのだった。
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