第67話 内裏御前会議

 内裏に着くと、すでに多くの人が出仕していた。まず、これが大きな違いだ。

 前回もちゃんと妖怪たちが働いているところは見ているが、それは大内裏での話。月読命の御前にずらっと大臣や各長官が並んでいるところは見たことがない。

「に、人間が八割」

 おかげで鈴音は妙な感想を述べてしまった。それに健星は

「人間型の妖怪もいるからな」

 と、妙な部分を律儀に訂正してくれる。

 その鈴音はにこにこ笑顔の月読命の横に座っていた。つまり居並ぶお偉方と向き合う位置。そして健星はその前に横向きに座っているのだが、その席は平安時代に合わせると太政大臣の位置だとか。

 健星、あんたって実はみんなから認められているでしょ。鈴音はそうツッコみたい。まあ、信頼されている面があると解っていなければ、王に立候補はしないか。これにも不思議な気分になる。

「主上、よき後継者に巡り会えたこと、まことに喜ばしきことでございますな」

 こそこそと話し合っていたら、左大臣の席に座る渋い声の男性が、そう月読命に声を掛けた。

「本当だよねえ。こんなにいい子、なかなかいないでしょ。紅葉の子というだけではないんだ。あのじゃじゃ馬の健星や捻くれてる陰陽頭さえも従えちゃうんだしね」

 で、月読命。すんごいことをさらっと言っちゃってくれている。健星も月読命に掛かればじゃじゃ馬か。鈴音は思わず笑いそうになったが、横目で健星が睨んでいるのでぐっと堪える。

「左大臣は元は天海てんかいという江戸時代の坊主だ。徳川家康とくがわいえやすを支え、江戸幕府の基盤を作った奴な」

 そんな睨む健星だが、ちゃんと鈴音をサポートするのは忘れなかった。喋っている左大臣の名前を教えてくれる。だが、その天海は坊主姿ではない。ちゃんと束帯姿だ。

「あの人も神様」

「まあ、仏教僧だから神様という言い方は妙だが、その分類だ。僧形じゃないのは、政務に集中するためだとよ」

「へえ」

 鈴音はもう一度その天海を見ると目が合った。そしてにっこりと微笑まれる。見た感じ五十代の天海は、ちょい悪親父風だった。

「もはや民意は決し、選挙の必要はなくなりました。次はやはり即位式かと思いますが、月読命様、そこまでがご公務としてよろしいでしょうか」

 その天海の横にいた右大臣が、今後のスケジュールの確認を取る。その右大臣は女性だ。しかし、ぴしっと束帯を着ている。姿は二十歳くらいだけれども、その雰囲気はとても二十代のものではない。

「あの人は?」

北条政子ほうじょうまさこ

「ほっ」

 説明されなくても解る人物に、鈴音は思わず大きな声が出そうになった。すると、北条政子が鋭い目を向けてきた。

 こわっ。源頼朝みなもとのよりともが尻に引かれるのも解るよねえ。そんな一睨みだった。

「こらこら、そんなに睨むものじゃないよ。鈴音、大丈夫だ。普段は鎌倉にいるから、そんなに来ないし」

 そんな政子を月読命は健星に対するのと変わらない感じで諫める。ううむ、やはり二千年もこの冥界を治めた王様。のほほんとしていても、ちゃんと王様だ。

「当たり前でございます。死後もどうして政に携わらねばならぬのか。頼朝殿を召されればよろしいのに」

 政子はふんと鼻を鳴らし

「それでも、悪政ほど見たくないものはございませぬ。しっかりお支えいたしますので、鈴音様、ご安心を」

 と付け加えた。どうやら見た目ほど怒ってはいないらしい。でも、やっぱり怖い。

「鈴音もすぐに慣れるさ。政子は可愛いんだよ」

 月読命、政子に対してまでそんなことを言う。あんた、本当は凄い人じゃん。なんで引退するの。鈴音は呆れ返ってしまう。

「実際のところ、今までこうやって左大臣や右大臣が出てくることはなかったんだ。つまり、今は誰もが行政改革の時期に来たと思っているってことだな。だが、妖怪どもの面倒を見る気はないから黙ってたんだよ」

 健星、なぜこうなるかを簡潔に述べてくれる。まったくもう、なんなんだ。みんな責任逃れしてないか。

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