第66話 大逆転ホームラン!?

「うわあ」

 鈴音は上へ下への大騒ぎの意味を知ると、フリーズしてしまった。これはとんでもない状況だ。

「新しい王様誕生セールですよ~」

「新しい帝のお祝い饅頭ありますよ~」

「春宮様をモチーフにした髪飾り、いかがですか~」

 ともかく内裏に行くぞと急かされて着替えた鈴音は、牛車に乗って町中を通っているのだが、めちゃくちゃ活気づいていた。それだけではなく、鈴音に絡めてあれこれ商売がなされている。

 誰もが次の王は鈴音であり、目出度いことだと思っているらしい。それが一発で解る状況だが、なぜこうなったのか。

「鵺と伏見の狐のおかげだ。新しき王は凶事も吉事も従える凄い人という印象を一発で与えてしまった」

「え?」

 それってあの東山での山中の事件のことか。しかし、鈴音はぶっ倒れていただけで、ああ、でも、九尾狐に変化したのか。

「待った。私って九尾狐になって」

「鵺を倒した。鵺はお前を主と認め膝を折った。よって、鵺が今後勝手に動き回ることはない」

「ああ、うん。それは解決したんだ」

 で、その先だよと鈴音は涼しい顔をして座る健星を睨んだ。どうしてそこから冥界が一気に鈴音が王という話になるのか。

「鵺はどうしてもお前を屋敷に送りたい。それを最初の務めだと言い出した。が、それに狐たちが異を唱えた。九尾狐は狐の最高位。いわば狐にとって絶対的な王。そんな方の輿を凶事の前触れとされる鵺が務めるなんて以ての外と、揉めに揉めた」

「ああ、うん」

 それはなんとなく想像が付くなあと鈴音は頷く。なんといっても、常に自分を敬い従うユキがいるのだ。狐たちの態度は推して知るべしだろう。

「そこで陰陽頭が仲介に入った。では、鵺を輿と仕立てて、周りを狐たちが華々しく固めよとね。狐は陰陽頭の言葉には従うから、仕方がないと妥協した。が、派手な演出を行うことにした」

「うわあ」

 徐々に、徐々にこうなった理由が見えてきたと鈴音は額を押える。煌びやかに勝手に飾られた自分。それはあのキメラの鵺に乗り、周囲は狐が華々しく道中を案内する。

 そりゃあもう、新しい王様誕生のパレード状態だったわけだ。

「陰陽頭も狐に加担したおかげで、それはもう華やかだったぞ。気絶しててよかったな」

「いや、何の慰めにもなってないし」

 晴明さん、何やってるんだよと鈴音はぐったり。

「さらにこれに乗っかる奴が出た」

「いや、まだあるの」

「当たり前だろ。そもそも山のような問題を含んだ選挙戦だ。ここで一気に問題を片付けたいと思うのは誰だって同じ。そこで中務卿なかつかさのかみ、つまり菅原道真殿が動いた」

「菅原さんっ」

 あなたは、あなただけは味方だと思っていたのに。鈴音は頭を抱えてしまう。

「まだ態度を表明していなかった各長官を説得。さらに下級官吏たちに新王が来るぞと触れ回った」

「うわあ」

 そんなことをやってたのと、鈴音は逃げ道のなさに疲れてきた。それと同時に、ああ、もう私って王様なんだ。そんな実感がどっとやって来る。

「というわけで、選挙はなし崩しになくなり、お前の即位に関しての話に進んでいる」

「いや、さらっと選挙まで飛ばそうとしてるし」

 鈴音はそこが大事だったんじゃないのと健星を睨む。

「選挙が大事なんじゃない。新しい王だと総ての住民が納得する人材であることが大事だ。まさに大逆転ホームランだな」

 しかし、何の問題もないねと健星は笑ってくれるのだった。

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