第42話 中務省長官は・・・

「それって、死んだら子どもに戻るってこと?」

 鈴音の問いに、子どもまでは戻らないさと健星は笑う。

「せいぜい十五だ。要するに、昔は元服した年齢、つまりは成人の年齢で蘇る」

「えっ、じゃあ唐突に十五歳から始まるの? でも、年は取るの?」

「ああ。冥界にとって、俺は雑用係として必要ってことだろう。だから、一番長く生きた時で百五十くらいだったかな。老人として長く生きる分には問題ないらしい」

「ううん」

 なんか今、途轍もなく難しいことを言っている気がする。鈴音は顔を顰めてしまった。それって要するにどういうこと?

「つまり、一般には知られていないが、俺は平安時代以降ずっと、あの月読命の宰相だったってことさ。俺があえて選挙戦に出たのも、結局は宰相として選挙を進めていかなければならなかったからだ」

 健星は解るかと、笑顔を引っ込めて真面目な顔になる。

「じゃ、じゃあ。私が王になるかもってのが決まった時点であっさり引いたのは」

「元のポジションに戻るだけだ。俺も王をやるより支えるという名の好き勝手にやる方が性分に合っているからな。平安の頃からそうだ。よく帝をからかって遊んだもんだよ」

 くくっと笑う健星には悲壮感というものがない。問題を直視した時には辛さを思い出すものの、普段は気にしないほどになっているということか。

 でも、初めて死んでもまた戻るって知った時はどうだったんだろう。健星問題がさらに複雑になり、鈴音は頭が痛くなってくるのだった。





「ほう。あんたが紅葉の娘か」

「は、はい」

 さて、とんでもない事実を知って頭痛がする中、訪れた中務省ではさらなる頭痛に見舞われていた。に、人間がいる。しかもめっちゃ気難しそうな人がいる。

 年齢は三十代前半くらいか。衣冠いかんと呼ばれる、頭には冠、着物は直衣のうしという姿の男性が、挨拶にやって来た鈴音をしげしげと見つめてくる。生真面目そうな顔は、鈴音を値踏みするかのように真剣だ。

「道真様。そんなに見つめては可哀想ですよ」

 横で控えていた健星が、そろそろいいかと注意した時には、すでに十五分が経過していた。その間、へえ、ほうっと、この道真なる人にしげしげと見つめられていたのだ。

「み、道真さんって仰るの?」

 鈴音はこの人ってと、道真から距離を取る。

「ああ、すまん。あの紅葉の娘が来るというから、果たして王として使い物になるのか、非常に心配だったものでな。なんといっても、俺は家柄だけで出世する奴が大嫌いで」

「道真様、まず名乗ってあげてください」

 くどくどと言葉を続けようとする道真に、健星がずばっと注意。

「ああ、すまん。俺はここ、中務省の長官を任されている菅原道真だ。よろしく」

「・・・・・・えっ?」

「知らんのか? まったく、大丈夫か?」

「い、いえ。菅原道真さんの名前は知ってますよ。遣唐使を廃止した人ですよね」

 牛車の中で日本史の話が出て来たせいか、鈴音は教科書に載っている知識を披露する。すると、道真は生真面目な顔を崩して笑い出した。

「え、ええっと」

 間違っていたと鈴音は健星に確認すると、合っていると保証される。あれ、じゃあ、なんで笑ってるの。

「いやいや。まさかそっちが先に出てくるとはな。普通は怨霊になった方が出てくるというのに」

 くくっと、よほどツボだったのか、道真はまだ笑い続ける。

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