　難しい顔が崩れると、一気に気さくな感じになっちゃった道真だ。鈴音はどうしてそんなに変化がと、目を丸くするしかない。

「ああ、なるほど。道真様はその昔、藤原という名前で出世する連中のせいで大変でしたからね。九尾狐・紅葉の娘というだけで王に押し上げられた小娘がお気に召さなくても仕方がありませんか。しかし、意外にもちゃんと歴史を知ってくれているようで安心したというわけですね」

　健星がすらっと道真の変化についてまとめてくれる。それに道真はそうそうと、持っていた笏（しゃく）を振って同意する。

「いやあ、今まで人間界にいた娘だというが、普通の子どもに何が出来るんだと思っておったのよ」

「いや、普通の子どもです。普通の女子高生です」

　変に持ち上げられる前に正しておかないとと、鈴音は割って入った。すると、道真は違うんだと、今度は鈴音の頭を優しく撫でる。

「いや、普通であることが悪いんじゃない。そもそもだ、お前さん、今日から王様だぞと言われると有頂天になるものだろう。下手すれば勘違いしてすでに王様気分かもしれないだろう。そうじゃない、ちゃんとした子で安心したよ」

「は、はあ」

　つまり、馬鹿な娘が来たらどうしようと思っていたということか。最初の普通は濁しただけだったな。

「道真様。そんなすぐに王だと勘違いするような馬鹿でしたら、紅葉に仕える者たちがここまでサポートしませんよ」

「おおっ。そうだな。狐というのはシビアな連中だし、ふむふむ。安心だ。篁に任せるよりは断然いい」

　道真は鈴音に投票するぞと笑顔だ。

「篁って呼ばないでください。彼とは魂は同じですが別人です。再生された時点で輪廻転生を果たしているようなものなんですから。道真様だってそうでしょう。便宜上菅原道真で通していますが、あの御方そのものではないんですから」

　健星は篁と呼ばれたことにむっとし、さらにそんな指摘までする。鈴音はどういうことなんだと大混乱だ。

「ええっと、なんかややこしいわね。歴史上の人物だらけなんだけど、その人たちとは微妙に違うの」

「そうだ、半妖の姫。俺は小野篁そのものじゃないし、この菅原道真様も菅原道真そのものじゃない。俺は地獄で仕官したという話から生み出された存在で、この道真様は恨みの末に雷神になったという話から生み出された存在だ。ここまで理解出来たか？」

「ええっと」

　これ、何をどう理解すればいいんだろう。それが鈴音の正直な気持ちだ。しかも、健星は生まれ変わりだと言い切っていなかったか。

「健星はそれでも人間よね。だって、篁さんから転生したんだから」

「まあな。この冥府に産み落とされたおかげで狂ってしまっているが」

　健星はふんっと鼻を鳴らす。

「でも、道真さんは」

「雷神として信仰される気持ちから生み出されたのだよ。だから道真本人ではない。本人は未だに転生することもなく、大宰府で梅を愛でておるよ。まあ、神として崇められているのだからそれでいいんだ。負の部分は俺が引き受けているからな」

　ははっと笑う道真だが、鈴音は理解が追いつかずに大混乱だ。冥界って単純に妖怪が一杯住んでいるわけじゃないんだ。ついでになんか神様もややこしいんだけど。

「取り敢えず、菅原道真だと思っていればいい。この人にも平安時代の記憶はちゃんとあるからな」

　そんな混乱する鈴音に、健星はざっくり考えろとアドバイスするしかないのだった。

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