第21話 これからが問題だ

 しかし、問題はここからだ。鈴音は自分の変化を覚えいるのか。さらに、この変化をどれだけ多くの妖怪が感じ取ったか。

 純血にほど近い九尾狐。その存在を、冥界にいる者ならば無視できないだろう。母の紅葉も健在なのだ。

「ちっ、不利だ」

 健星はやれやれと溜め息を吐く。すると、左近が手を差し出してきた。

「かたじけない。お主がいなければ、我らは鈴音様を止めることが出来なかった」

「ふん」

 その手を握り返すも、健星は面白くないと鼻を鳴らした。その間に右近も戻り、鈴音が奥の間に運ばれていく。九尾狐のままだった紅葉が、そこでようやく元の姿に戻った。こちらは変化を応用しているだけだから、女房装束の女性の姿となった。

 その姿はまさに妖艶。絶世の美女だ。九尾狐ともなれば美しい人間に化けるのは当然のことだった。

「小野殿」

「紅葉、どうするつもりだ?」

 相手が九尾狐だろうと健星の調子は変わらない。が、ちゃんと意見聞かなければならない。

「あの子が冥界に関わることになったのは不本意です。泰章さんとの約束を破ってしまったことになります。でも、あれほどの能力、いつかは人間ではないことを知り、冥界に来ることになったでしょう。そう思うと、今度の玉座を賭けた選挙に出るのは運命だったのかもしれません」

 紅葉は健星の横に座ると、そっと微笑みかける。あなたはもうどうすべきか決めたのではありませんか。その目が穏やかに問い掛けてくる。

「ふん。確かに小野の血筋としては玉座に踏ん反り返っているのは性に合わん。だが、すんなりとあの娘が王になるのは認められない」

「あらあら」

「茶番になろうと選挙は行うべきだ。神ではない者が玉座に就くというのは、民意あってこそだからな。俺ほどではないとはいえ、半妖が玉座に就くことを快くないと思う妖怪はいる。そこを黙らせるだけの器が必要だ」

「ええ」

 健星の言いたいことはよく解る。紅葉は頷いた。

「ともかく、あんたは娘のケアをしてやれ。俺は現世で起こった事件を適当に始末して来なきゃならん。話はそれからだ」

「ありがとうございます」

 礼を言われ、健星は鼻白んだ。しかしすぐに立ち上がると、ざっと身を翻して現世へと戻ってしまった。

「紅葉様。申し訳ございません。私が付いていながら」

 健星と入れ替わるようにやって来たユキは、紅葉の前に平伏する。大切な娘であり姫を守れなかったのだ。どんな罰があっても受け入れるしかない。

「ユキ、いえ、雪貴ゆきたか

「はっ」

 真名まなを呼ばれ、ユキはますます身を低くする。

「鈴音をお願いしますね。あらあら、ほっぺに傷が」

 ユキの頬を紅葉が撫でると、すっと傷が消えた。これも九尾狐の力だ。

御台所みだいどころ様。あの」

「まだまだ戦いは続きますよ。あの子が気に入っているあなたが傍にいないでどうするの?さあ、本当の姫君になってもらうべく、これからが大変よ」

 にこっと微笑む紅葉に、ユキは茹で蛸のように顔を真っ赤にする。

「も、もちろんでございます。この雪貴、全身全霊で鈴音様をお守り申し上げます」

「その意気よ。では、娘の元へと向かいましょうか。怖い思いをしてすぐだけど、だからこそ、ちゃんと理解出来るはずだわ」

 小さい頃に別れなければならなかった理由である力。その封印が解かれたのだから。

 紅葉は優しく微笑むと、衣擦れの音を立てて立ち上がった。

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