第22話 母との再会

 目を覚まして、どこにいるのか解らなかった。見慣れない天井がそこにある。その天井は高く光っているはずの部屋の電気はない。

「あれ、私」

 起き上がろうとして身体に力が入らないことに気づく。鈴音は風邪を引いたみたいと寝返りを打った。

「ん?」

 そこでようやく、ここが冥界であることに気づいた。間仕切りとして置かれた几帳。こんなの、平安時代を模した冥界にしかないはずだ。

「うそっ、あれ、私どうして」

 混乱するも、熱があるのか身体が動かない。ううん。解らないなあ。確か健星の部屋にいて、鬼を待ち構えて――

「っつ」

 徐々にはっきりと思い出し、鈴音は息を飲む。そうだ、ユキの顔を見てショックだったのだ。半分人間半分妖怪。あの顔を自分は見たことがある。それも幼い頃、自分の顔がそうなったのだ。

「私、やっぱり狐なんだ」

 半妖だなんて信じられなかった。泰章が否定しなかったことで受け入れていたが、心の中では人間だと思っていた。それだけに、小さい頃にそんな顔だった記憶が蘇り、ショックが大きい。

「はあ」

「目が覚めた?」

 大きく溜め息をしたら声を掛けられ、鈴音はびくっとしてしまう。女性の声だから右近だろうか。

「は、はい」

 一応返事をしなきゃと声を出すと、几帳がずらされて女房装束の美しい女性が入ってきた。右近の比じゃない。まさに絶世の美女。同性でも思わず顔が赤くなるなんてものじゃない、見つめたまま固まってしまうレベルの美女がいた。

「久しぶりね。といっても、あなたは覚えていないかしら」

「え?」

 しかし、几帳越しではないその声は聞き覚えがあった。こんな絶世の美女なんて知らないはずなのに、声は知っている。

「まさか、お母さん」

「ええ」

「・・・・・・」

 感動の再会とはほど遠く、鈴音は完全にフリーズしてしまった。

 ええっ、こんな美女がお母さん?

 驚きすぎて目と口があんぐり開ききってしまう。

「あらあら。そんな顔は駄目よ。それより身体は大丈夫?いきなり封印が解けたものだから、相当負担があったはずよ」

 紅葉はそう言って優しく額を撫でてくれた。その手の感触は間違いなく母のもので、泣きそうになる。

「し、しんどい」

 だから素直に辛いと訴えることが出来た。

「ユキ、薬湯を用意して」

「畏まりました」

 傍にはユキもいたらしい。さっと立ち上がってどこかに行く気配だけがある。

「あの、封印って」

「覚えてないのね。仕方ないわ。大丈夫、ゆっくり説明してあげるから」

「あ、うん」

 にこにこと微笑む母の顔に安心するが、鈴音は同時に不安にもなる。冥界で再会できるだろうことは解っていたが、あの時はすぐに来てくれなかった母が今はいる意味は何だろう。

「現世での事件は小野殿がしっかり片を付けてくれているわ」

 そんな不安な顔を見て、紅葉はわざと話題を逸らした。鈴音はこくりと頷く。

「適当な人に殺人の罪を擦り付けるってやつよね」

「ふふっ。相変わらず口の悪い子なのねえ。大丈夫よ。どうしようもない、救いのない人間が選ばれるだけ」

「そ、そうなんだ」

 とはいえ、それでも殺人の罪を追加していい理由にはならない気がするけど。鈴音が首を傾げていると、美少年に戻ったユキが薬湯を運んで来てくれた。その顔に鈴音はほっとしてしまう。

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