第12話 妖しが犯人の事件

 朝から色々と散々だったが、テストの結果も散々だった。ああもう何なのと、鈴音はユキを肩に乗せてとぼとぼと学校から帰るしかない。

「おいっ」

 しかし、まだまだその不運は終わっていなかったらしい。急に声を掛けられたと思って振り向くと、覆面パトカーに凭れて立つ健星の姿があった。

「げげっ」

「小野」

 鈴音とユキは同時に叫んでしまう。すると健星はむっとしたような顔をしたが

「今朝のことで少し聞きたいことがある。乗れ」

 と、覆面パトカーの助手席のドアを開けてきた。マジでなんなの。

「あの人、イケメンじゃない」

「喋っているの、隣のクラスの安倍さんよね」

「うわっ、年上の彼氏。羨ましい~」

 しかし、帰宅途中だったということは、ここはまだまだ通学路。同じ学校の子たちが噂する声が聞こえてきて、鈴音は恥ずかしさの余りに勢いよく車に飛び乗っていた。

 っていうか、こいつと付き合ってるって勘違いされたのが一番嫌。鈴音は色んな意味で顔が真っ赤になってしまう。

「今も昔も、ああいう話が好きだよな」

 一方、運転席に座って車を発進させた健星も不快そうだ。互いに気まずくなる。しかし、健星はすぐに口を開いた。

「今朝、惨殺された女の死体が発見された。知っているか?」

「えっ、いえ。テストを受けていたので、スマホを見れなかったから」

「そうか。ともかく、殺人事件だ。それも妖怪の絡むな。問題はその妖怪の気配を追っていたらそいつ」

 ぴっと、健星が鈴音の肩に乗るユキを指差す。ユキはきょとんとした顔をした。

「そいつの術の気配がした」

「えっ」

「わ、私は人間を襲ったりしません!」

 驚く鈴音と、猛然と抗議するユキ。が、その反応は予測していたのか、健星は無表情のままだ。

「そんなことは解っている。問題はお前の術の気配がしたという方だ。お前はいつ、現世で術を使った?」

 そしてすぐにそんな質問をしてきた。ユキは目を丸くしたが

「鈴音様をお救いするために術を使いました。昨日の夕方です」

 と素直に教える。

「なるほど。となると、追っ払った妖怪が犯人だな。どんな妖しだった?」

「姿は見ていませんが鬼です。鈴音様が王になられることを阻止しようとやって来たんですよ」

「ふん。まあ、そいつも半分は人間だ。食っちまおうと考えたってことか。で、当てが外れて他を食らったってことだな」

「そんなっ」

 そこまで黙って聞いていた鈴音だが、それって今朝の被害者は鈴音の代わりに殺されたということか。そんなのってあんまりだ。

「それが妖怪だ。特に人間を捕食するタイプは凶暴かつ見境がない。一度狙って現世にやって来た以上、食わずに済ますなんて出来なかったんだろう。何匹いた?」

 憤る鈴音にも淡々としたまま、健星は質問を続ける。

「二匹だと思います」

 あの時、声は二つ聞こえた。ということは二匹だろう。鈴音はぞっとしてしまう。

「ふむ。ますます面倒だな。俺の場合は妖怪どもが手出ししてきても自力で退治できる。だから、人間界で襲ってくることはないんだが、お前はここにいると狙われる。冥界から出て行けと言いたかったんだが、早急に冥界に引っ込んでくれるか」

「なっ」

 さらに健星がそんなことを言うので、鈴音は驚いてしまう。が、ユキはそうですと頷いた。

「冥界ならばおひいさまを慕う者は多く、守ってくれます。現世のように危ない思いはしません」

「だそうだ。さっさと帰れ」

「で、でも」

 殺人事件は自分のせいで起こったのに。そう思っていると、健星から鋭い目を向けられた。

「王になるってことは生半可じゃない。よく解っただろ」

「だけど」

「倒せない奴が王になっても仕方ない。お前は選挙が終わるまで、あの屋敷で大人しくしていろ」

「嫌です!」

 鈴音は思わず反射的に叫んでいた。

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